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小説の世界で公開停止中の作品 フルメタル・パニック



黒猫さんの夢の世界・フルメタ編




「いやあ、テレサさん。娘がいつもお世話になりまして。」

「いえ、こちらこそお世話になっております。」

「しかし、我が娘も手強い相手に対してよくもまあ、相良君の心を取ったものだ。いや、これは失敬。常識ある大人としてこれは、失言でしたな。」

「いや、本当に申し訳無い。お詫びといってはなんだが、この後、食事でもどうですかね?こんなむさ苦しいおっさんでよければですけど。」

「嫌ですわ。確かにお年を召していますけど、ピシッとしていて紳士じゃないですか?」

「おや、これは、これは、うれしい事を言って下さる。これを楽しみに仕事がはかどるってものですな。ははははは。では、査察の方を開始させて頂きます。」

「はい。ご案内させて頂きます。」

 そのテッサの後ろで控えている相良宗介は、たらたらと汗を流し、白衣を着た千鳥かなめは、はあっと溜息をつくのであった。

 ここは、メリダ島のミスリル基地。

 今日は、国連の環境査察団として、千鳥かなめの父が訪れたのであった。

 アルムガムとの戦いが済み、国連からも非公式とはいえ、平和目的及び治安維持による軍事行動を容認されていたミスリル。

 そんな関係にある国連から太平洋の孤島で原初の自然環境を色濃く残しているメリダ島に対して査察を行いたいとの意向をミスリルに打電した。

 いろいろと曲折等があったが、最終的に国連との関係を良好な状態にしておきたいと考えたミスリル上層部は、この提案を受け入れたという経緯があった。

 その対応に出たのが、メリダ島基地の司令でもあるテレサ・テスタロット准将と、ミスリルに就職(笑)し、そのウィスパードとしての能力を生かして、主にメリダ島の施設整備、エネルギー問題や環境問題に取り組んできた千鳥かなめミスリル技術部メリダ島研究所副所長(大尉待遇・ちなみに所長はテッサ)そして、その二人のSPである相良宗介大尉であった訳である。

「お、お父さんって、こんなに軽い人だったのね。」

 急にビシッとお仕事モードに入る父を見て、そう、一言つぶやくかなめであった。




「さてと、これで、一応査察は終了した訳ですがと。かなめも一人前の大人になったものだなあ。このデーターを見る限り、相当に環境問題について努力している状況がわかる。ずっと離れて暮らしてきて、父として肝心な時に居てやれなかった私としては、嬉しいやら、さびしいやら。本当にかなめは、すばらしい友人と恋人に恵まれているなあ。」

 かなめが提出した様々なデーターを見て考え深げにそう言う父に対して、

「一応、お父さんの仕事も見てきたから、こんな仕事もしてるんだけどね。」

 と、どこか誇らしげに答えるかなめを見て満面の笑みを浮かべるかなめの父。

 そんな姿を見て、どこか寂しげな笑みを浮かべるテッサ。

 そんな3人を見て、家族というものに対して考える宗介がいた。

「さてと、ところでこの後ですが、お食事の予定は?」

「一応、食堂でって事になっていますが。」

 宗介が答える。

 ふむと頷きそしてまじめな表情をしながらテッサに切り出した。

「出来ましたら、その後、テレサさんと二人でバーでお話をしたいんですが。いやあ、お分かりかとは思いますが、国連としては、環境問題の他に軍事問題でもミスリルには興味を持っていましてね。さすがに、この話を娘とその恋人の前ではしたくなくってね。大人の事情とはいえ、そんな姿を娘に見られたくないというか。まあ、その辺は、かなめもわかってるとは思うが、まあ、父親のわがままと思ってくれればいいんだけどね。」

「本当に、紳士的ですね。かなめさんのお父さんって。」

 テッサが感心したようにかなめに話しかける。

 かなめは見た!!

 テッサの頬がうっすらと赤みをさしている事に。

 宗介は見た!!

 かなめの表情が青ざめて行く事に。

 そんな3人を見て、にやりとするかなめのお父さんであった。




「宗介。あれ、どう思った?」

 食堂での会食も終わり席を辞してバーに向かったテッサと父を指して、かなめが宗介に問う。

「あれとは、准将が顔を赤らめたことか?千鳥?」

 ずずっとプラスチックのコップでお茶をすすりながら宗介が答える。

「そう、あのテッサの顔。あれ、恋する乙女の顔よ。」

「ふむ。憧れを持っているだけではないのかな?准将殿は幼い頃に父親を無くしているそうだし、父親というものに複雑な感情を持っているだけだろう。」

 冷静に分析してみせる宗介。

「ううん。私の思い違いなのかなあ?」

 首をかしげるかなめにそれまで仏頂面だった宗介が微笑みながら答える。

 仕事中はもちろんプライベートでも見せない、かなめだけに見せる微笑で。

「心配しすぎだぞ。自分としては、その瞬間を見て青ざめた、かなめの方が気になったのだがな。」

「あんたも人の心の葛藤というのを見抜く事が出来るようになってきたわよね。昔とは、本当に大違いだし。」

 遠い目を見るようなかなめ。

 それを見て一筋の汗を流す宗介。

「ま、まあ、かなめと付き合って、いろいろな人生経験を体験したからなあ。」

 高校時代から今までにかけて、宗介を取り巻いて勃発した争奪戦を思い浮かべながら複雑な表情をする宗介を見て、本当に人間的に成長したなと思うかなめ。

 その要因に自分が関わったというのは、うれしい限りであると今なら言える。

 普段から、戦争馬鹿として世間一般的な常識から遠い存在だった宗介だが、その心の底に根付いているやさしさと、戦場で自然と身についたどこか達観したような感じが、宗介と深く関わってきた人にはわかる。

 ミスリルの中では一番初めに宗介に出会ったカリーニン中佐や、ミスリルで長くチームを組んでいたマオ大尉やクルツ大尉。

 慣れない地上での戦闘状況という極限の状態で、そのやさしさに触れたテッサ。

 自分自身も受験の時期や高校時代に親元を離れ一人で生きてきた林水などは、すぐに宗介を自分の片腕とも言える要職につけた。

 陣代高校がもっとも波乱に満ち、それでいてもっとも輝いていたのは、清濁併せ持ち交渉に長けており、カリスマを持つ林水。

 林水の片腕として常時控えめにサポートをしていた蓮。

 そして、問題はあるが、危機管理については、一級品の宗介。

 その宗介の手綱を操る為に手元に引き込んだ林水の策略は、見事図にあたり、徐々にではあるが、常識を身に付けていった宗介は、その後、陣代高校に降りかかる災厄を未然に防いだりする事になる。

 それを後から知ったかなめは、危機管理というのも必要だと思ったりした物である。

 まあ、初期の宗介の行動は、異常なのであるが。

 その一員に自分が関わったというのは、自分の誇りであると、かなめは思う。

 何か問題を起こす度にハリセンを振り回し、宗介の異常な行動を止める自分。

 どこか、快感があったのは、自分がSなのではと思わないでもないが、その一瞬は、確かに楽しかった。

 料理を作ってあげると、普段はむっつりとした宗介が、ぱあっと輝いて見えたのは、自分の気のせいでは無いと思った。

 そして、おいしそうにそれをあっという間にたいらげてしまう宗介を見ていると自分も嬉しかった。

 きっかけは、あのハイジャック事件ではあったが、あの事件のおかげで今の自分と宗介の関係があるのである。

 だからこそ、かなめのライバルというのが、手ごわいのである。

 宗介の内に隠された内面に気が付いた女性からもてたといった方がいいのか?

 演劇部の部長を務めていた佐伯さんは、宗介の内面をなんとなく見抜いていたのであろう。

 テッサは、同年代の異性の友人がいなかったせいもあるが、極限状態で助けられ、そして、自身も形が違うとはいえ、要職について戦闘指揮をしていた身の上の為、すぐに宗介のやさしさに気が付いた。

 この2人だけでも、相当に手ごわい。

 自分が勝てたのは、護衛として宗介が常に自分のそばにいてくれた事と、宗介自身が、自分を意識してくれたからである。

 そうでなければ、遅すぎる恋する気持ちに気が付いた自分が勝利者には、なりえなかったであろう。

 今が一番幸せな時間。

 そう、何も心配する事などないのだ。

 彼が横にいて自分を支えてくれる限りは。

「本当に、ふたりしていろいろな事を経験してきたからねえ。」

 不安な気持ちが無くなりしみじみとした感じで、どこか遠くを見るかなめ。

「そうだな。まあ、心配することもあるまい。」

 そう言って、また、ずずずとお茶をすする宗介を見て、自分は幸せものだなと思う、かなめであった。




 それから3ヶ月後。

 国連との潤滑な関係を築きあげたメリダ島にて。

「しっかし今日も疲れたわねえ。テッサ。」

 テッサの部屋で紅茶を飲みつつぼやくかなめ。

 それを見て、微笑むテッサ。

 業務が終了した後、大体決まってテッサの部屋でお茶会になるのが、かなめがミスリルに入隊しメリダ島に配属されてからの日課となっている。

 主催者はテッサ。

 趣味で始めた紅茶だが、なかなかの腕前になっており、それを徹夜明けでハイになってるかなめが聞きつけ、

「の〜ま〜せ〜ろ〜〜ぉ」

 と、幽霊のような形相で迫られたのが事の始まりで、それ以来かなめを始めそれを聞きつけた他の女性隊員も含めてのお茶会となっている訳である。

 その当時の事をテッサは、

「だって、かなめさんったら、今にも私に襲い掛かりそうなんですもの。まあ、あの時は、私も無理をいってお仕事を頼んだものですから、断りきれなかったですし。でも、まあ、おかげ様で、こうして女性隊員の皆さんとの円滑なコミュニュケーションを築けた訳ですし、かなめさんには感謝ですね。」

 で、それを聞いたかなめは、ただただ

「うははははあは・・・・・」

 と、どこか虚ろな笑いをするのであった。

 止まれ。

 そういう訳で、本日も業務を終えたり、非番だったりする女性隊員とかなめは、恒例となったお茶会に参加している。

 女の子が集まればもちろんおしゃべりが始まる訳で、どこぞの女学校の如くの喧騒さ。

 テッサも楽しそうにその輪の中に入っている。

 取り留めの無い会話をしつつ、そろそろお開きの時間かという時に、突然「うっ」と、うめき声をあげるテッサ。

 咄嗟に口に手を当てて洗面所に駆け込むテッサ。

 その光景を見て、唖然とする面々。

 そう、この状況は、あまりにもお決まりのあの情景。

 ドラマやアニメや漫画や小説でお決まりのあの情景である。

 真っ青な顔をして戻ってきたテッサを心配そうに、それでいて、気体に満ちた目で向かえる女性隊員一同。

「で、テッサちゃん?身に覚えはあるのかしら?」

 メリダ島の美人熟女ベスト3に入る看護婦のシーラが、その職務故に冷静に聞いてみる。

「はい。あるにはあるんですが、まさか、そんな事って。」

 真っ青な顔を通り越して、血も通っていないような蝋人形のような面持ちでつぶやくように答えるテッサ。

「一晩だけの。そう、一晩だけだったんですけど。」

 その告白に一同驚きの表情を見せる。

 まさか、真面目なテッサが、行きずりの相手と性交を持つなどとは。

「と、とにかく。ちゃんと検査しましょうね。今から大丈夫?」

「はい。大丈夫です。」

 テッサに確認をしたシーラは、その手をやさしくつかみ、部屋を出て行った。

 しばし呆然とする一同だったが、そんな中、かなめだけは、ただただ呆然としているのであった。

 3ヶ月前。

 まさか、そんな。

 もしかしたら、テッサ以上に動揺しまくっているかなめに気が付くものは、誰もいなかった。




 更に3ヵ月後・・・・・

「と、いう訳でありまして、この糞親父は、私の友人を手篭めにし、腹ませ、更にこの女性と再婚という、ある意味犯罪的な事をしてのけた訳であります!!」

 片手に日本酒の一升瓶を持ち真っ赤な顔になりながらスポットライトを浴びつつ壇上にてお祝いの言葉を述べているかなめさん。

 その迫力と事情が事情だけに来賓席の皆さんは、ただただ、冷や汗を流しながらお祝いの言葉という名を借りたお怒りのお言葉を聞くしかなかった。

 テッサが確実に妊娠していたことがわかり、誰が犯人だと大騒ぎになったメリダ島。

 副指令であるマデゥーカス大佐は、あまりの出来事に倒れてしばらく職場に復帰できなくなるはといろいろなことがあったが、犯人がかなめの父親という事がわかると更にパニック状態に陥ったのは無理も無い話である。

 席で食事を取りながら、もしも、この時にメリダ島が敵に攻めこまれば、確実に陥落していたなと宗介は思っていた。

 結局、かなめの父親とテッサの電撃入籍を済ませ本日めでたき日に結婚披露宴と相成ったわけであるが、もちろんかなめはいまだに納得をしていない訳である。

 まあ、当たり前の話であるが。

「こんな事が許されていいのか!!駄目なような気もしますが、糞親父も私の母を無くしてからずっと一人身であった訳ですし、テッサも結婚というものに憧れを持っておりました。そんな二人に対して恨み言を述べるというのは、気がひける物ですが、私の気持ちも少しは理解してって言いたい訳であります。まあ、なにはともあれ、めでたい席でこれ以上の狼藉は許されないと思いますので、この辺でやめておきまして、テッサ。これから大変だと思うけど幸せでね。」

『ええ、友人代表であります千鳥かなめ様のお祝いのお言葉でした。」

 ハンカチで額の汗をぬぐいつつ司会者が進行を進めていく。

 席に戻って来たかなめは、そのままどかっと座りコップに手に持っていた日本酒を注ぎ一気に飲み干す。

「気が済んだか?かなめ?まあ、すまないと思うがな。」

「よくわかっているわね。宗介。済むわけないでしょうに!!」

「まあ、そうであろうな。しかし、未だに信じられん。」

「私だって。私が先に宗介と結婚するかと思っていたのにテッサに先越されるし、しかも、その相手が自分の父親っていったい・・・。」

 目に涙を溜めつつかなめは更にぐっと酒を飲み干す。

 娘に嫁がれた父親の悲しみを地でいっているかなめを見つつ、はあっと溜息をつくしかない宗介。

 そんな何ともいえない雰囲気の席で苦虫をつぶしているかなめの妹と祖父のふたり。

「すまんな。相良君。孫のこの醜態申し訳なく思う。」

「いえ、お気になさらずに。」

「でも、よくこんなお姉ちゃんと一緒になろうって考えたね。宗介お義兄さん。」

「まあ、ほれた弱みというやつかな?」

 最近おしとやかになりつつあるかなめの妹に返事を返す宗介。

 その横で、いつのまにか酔いつぶれて眠ってしまったかなめ。

 そっと背広の上着をかけながらやさしく微笑む宗介を見てこれなら安心だという顔の祖父とかなめの妹。

 ある意味、狂宴とも言える結婚式は、その後も続いていった。

 そして、式の終わりも近づき、花嫁であるテッサが両親への感謝の言葉を述べる。

 もっともテッサに両親はいないので、親しい人達への感謝の言葉であるが。

「皆さんには、本当にお世話になりました。そのおかげで今、この幸せを掴んでおります。最後に、かなめさん。宗介さん。これからは、あなた達の義母となりますが、公私共に宜しくお願いしますね。」

 こうして結婚式は、つつがなく終わった。



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