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雪の降る夜に




 シンシンと雪が降る中、おぼろげに雲を透き通る月の明かり。

 そんな日に彼女は私の家に突然現れた。

 トントンとドアを叩く音に気がついて私は、その時布団の中に入って一人寂しくテレビを見ていた。

 世間では、クリスマスイリュミレーションの紹介とか、街角でデートをする男女にインタビューなどをしていたが、私にはそんなことには、縁がなく、ただ、師走の忙しさで疲れている体を休ませているといった状況であった。

 時間は夜の10時過ぎ。

「誰だあ?こんな時間に。」

 そろそろ寝ようと思っていたので、少し不機嫌な独り言をいいつつ、私は玄関のドアを開けた。

 そこには、一人の少女がいた。

 白いセーターを着ていたが、コートなどは羽織っておらず、体全体が震えているのがわかった。

 こんな時間になんで?

 こうゆう疑問がまず出てくるのが普通であろう。

 が、しかし、それよりも驚いたことが私にはあった。

「テレサさん?」

 が、そう言ってから私は気がついた。

 アッシュブランドだったよなと。

 目の前の少女は、漆黒の黒髪であった。

 それにテレサさんは、今、御年2×才。

 でも、目の前の少女は、中学生か高校生の年代であった。

 が、それを除いてもこの少女は、実に私の知り合いに似ていたのだ。

 そう、傭兵部隊ミスリル少将のテレサ・テスタロッサに。

「あの、なんで私の名前を知っているんでしょうか?」

 そんなことを思っていた私に少女は驚いた顔をして答える。

「へ?」

「私テレサって名前なんですよ。」

 ひょうたんから駒というか、なんというか、驚いてしまったが、まずは、彼女の用件を聞くのが先であろう。

「いやあ、知り合いに似ていたものですから。その人の名前がテレサさんっていうんですよ。で、どのようなご用件で?」

 するとテレサと名乗った少女は、ちょっと困った顔をして事情を話す。

「えっと、道に迷ってしまいまして。すいませんが、ここがどこなのか教しえていただければと思いまして。」

「ええと、北星町ですよ。」

「えっと、私、その地名知らないんですけど。」

「知らないと言われても。最近こちらに引っ越してこられたとか?」

「いいえ。私は、ずっと東京に住んでいますけど?」

 内地の方ですか。

「ほお。北海道にはご旅行で?」

「へ?」

 いかにもびっくりしたような返事をするテレサさん。

「いや、へって言われても。」

「いえ、だって、私、ただ、家から飛び出して来ただけですから。でも、北海道なんですねえ。だから、こんなに雪積もっているんですね。」

 びっくりした顔をするテレサさん。

「いや、雪でびっくりされても困るんですけど。」

 たらりと汗を流す私ににっこりと微笑むテレサさん。

 いやあ、いったいどうなっているんであろうか?

「とりあえず、もしよければ中に入りませんか。もっとも、こんな夜更けに男性の部屋へ入るというのも怖いかもしれませんが。」

 冗談めかして怖いことをさらりと言う私に、テレサさんはさらりと言い返した。

「このままじゃ凍え死んでしましますし。お邪魔致します。でも、変な事をしたら怒りますからね。私、こう見えても結構護身術強いんですよ。」

 にっこりと微笑みながら力こぶしを作って見せるしぐさをみせるテレサさん。

 ううむ、冗談を冗談で返されてしまったような。

 まあ、でも実際、こんな寒い中で意味不明なこといってる少女をほっぽりだすわけにもいいかないし、これは、至極当然の行動であろうと、私自身は思っていたが、年頃の乙女にしてみれば、貞操の危機というものもあるし、一応冗談めかして忠告と安心感を与えたのだが、どうやらテレサさんの方もそのことに気がついたみたいでこう切り替えしてきたわけだ。

 どうやら、頭のねじが緩んでいるって訳ではなさそうである。

 なにやら、得体の知れないことが起こっているらしいなと、私は感じずにいられなかった。




 コタツに入りながらみかんの皮を剥いてぱくつくテレサさん。

 私は、急須にお茶っぱを入れて、番茶を作りテレサさんに差し出す。

「はあ、生き返りました。」

「それはよかった。」

 何気ない会話をしながらとりあえず、くつろいでもらっている。

 と、いうか、自分もくつろげるようにしているといった方が正しいか?

 突然現れた謎の美少女を前にしていると、健全な男子である私自身の理性が飛びかねない。

 とりあえずは、何気ない世間話をしながら落ち着こうと画策した訳であるが、どうやらそれは成功しつつあるようである。

「で、なんで家飛び出したんです?」

 とりあえず、そっちから先に話を聞く。

 まあ、実際、テレサさんが東京にいたのかどうか、わからない訳だし、ここは、無難な質問をした方がよさそうだという判断からだ。

「ええと、信じられなかもしれないんですけどね。」

 そう、前置きをして、テレサさんは、語りだした。

「夜、トイレで起きてきた時に、居間で話す父と母の話を聞いちゃったんです。私の15歳の誕生日である12月25日に、私がお母さんの子供じゃないということを話そうって。」

「そ、それは、俗に言う、連れ子さんで結婚したってことかな?」

 ううむ、本当に家庭内の問題だなあ。

「それだけだったら、そんなにショック受けないです。そのまま聞き耳立てていたら、大体の事がわかりました。私、お父さんとお母さんの死んだ親友の卵子とお父さんの精子を人工授精させて、それをお母さんの中で育てられたっていう、人工授精児だったんですよ。」

 ううむ、さらにややこしい話だ。

「それって、確かにすごいショックを受けるかも。」

「でしょう?で、いよいよ私の誕生日がきちゃったんですけど、直接聞く勇気が持てなくって。で、少し落ち着こうかと思って、ふらふらと散歩に出たんです。そうしたら、いつの間にやら雪が降ってきて。そしたら、全然知らないところにいたんです。で、とりあえず、近くにあった家で道を聞こうと思いまして。」

「でも、もう夜の10時過ぎ。早く帰らないと。っと、いうよりも、何で東京から北海道にいるかなあ?実は、テレサさんが嘘ついてるっていうのが一番妥当なんだけど。」

 そう言ってテレサさんの目を見ると、目を潤ませていた。

「わ、私だって訳わからないんですう。」

 あああああ、そんな顔しないでええ。

「パターンその1、知らず知らずの内に飛行機に乗っていた。」

「いえ、その、私が家を出たの夜の8時なんです。近くの空港までどんなに急いでも1時間かかりますし、そこから飛行機に乗って、降りて、ここまで来るのにどれくらい時間かかるんでしょうか?」

「ええと、少なくとも、チェックアウトとかもろもろ含めて、家まで30分余裕見て1時間は、かかるわなあ。」

「しかも私が感じている時間って30分くらいですよ。」

 ううむ、ミステリー。

「つまり、空間移動をしたと。ううむ、常識じゃあ、考えられんけど、テレサさんが嘘ついているように見えないしなあ。とりあえず、親御さんに電話かけたらどうかなあ?2時間も家空けていたら心配するしょ。」

 そう言って電話の方を指差す。

「とりあえず、出たら私と替わって。事情説明して、場合によっては、テレサさんを警察に保護してもらうとかするから。」

「ええええ!!私なんも悪いことしてませんよ〜ぉ!!」

 再びうるうる目ををするテレサさん。

「いや、そうゆう問題じゃなくてね。ほら、もう夜遅くて東京までの交通機関動いていないから、結局一泊せにゃならん訳だけど、そうなると、私の家に泊めるって訳にはいかんっしょ。普通の親御さんなら、娘をどうする気だ!!ってなもんで、殺されかねません。と、なると、窮屈だけど、警察で一泊すれば、完璧に身の安全確保されるし、ある程度信じてもらえれば、近くのホテルで一泊させるって手もあるからねえ。」

「あ、そういえば、そうですよね。そこまで気がつきませんでした。」

 どうやら納得してもらえたようである。

 ちなみに電話をかけさせるというのも、実は策略のひとつだったりする。

 要するに、本当に東京に電話するかどうかの確認と、全面的にテレサさんの話が本当かどうかの確認が出来るというわけだ。

 そう考えているとは知らずに電話をかけるテレサさん。

 が、何度も何度もかけ直しているが通じない。

「あれ?おかしいなあ。なんでこの電話は現在使われておりませんってなうんだろ?」

 本当に困った顔をするテレサさん。

 ううむ。

 雲行きが怪しくなってきたぞお。

「どれどれ、あ、本当だ。」

 リダイヤルボタンを押しても、確かにアナウンスが入る。

 ちなみに、この時電話番号も見てみたのだが、確かに東京にかけているし、番号も意図的な番号では無い。

 にもかかわらず、使われていないというアナウンス。

「本当にこの電話番号でいいの?」

「はい、間違いないです。」

 即答するテレサさん。

「じゃあ、とりあえず、104で電話番号問い合わせしましょうか。えっと、そういえば、苗字聞いていなかったなあ。お父さんの名前なんていうの?」

「えっと、相良宗介っていいます。」

 へ?

「あはははは。いやあ、知り合いの名前だよお。まさか、お母さんの名前、かなめとか、テレサとか言ったりしない?」

 冗談めかして聞いてみたんだが、爆弾が出てきた。

「はい。お母さんの名前は、かなめっていいますし、それにテレサっていう私の名前って、お父さんやお母さんの親友の名前から取ったって言ってるの聞きました。」

 はい〜〜〜ぃ?

「さらにいうとだ、お母さんの旧姓千鳥っていったりして?」

 ぎぎぎぎぎっと首を横にいるテレサさんの方に向けながら聞いてみる。

「ええ、そうですけど。もしかして、お父さん達の知り合いとか?」

 びっくりした顔をするテレサさん。

 が、それ以上にびっくりしたのは、私の方だってば!!

「いや、計算あわんよ。だって、私の知り合いって25歳になるんだし、テレサさんが15歳になるんだから10歳のころ生んだことになるし、まさか、そんな訳ないっしょ。まったくの偶然ってやつだねえ。ううむ。こうゆうこともあるんだなあ。」

 ああ、びっくししたと思ったのもつかの間、テレサさんは、核爆弾を投下した。

「あはははは。でも、私が生まれたのって5年後の今日なんですけどお。だって、今テレビで200X年のクリスマスって言っていましたよねえ。あは、あははははは。」

 テレビのニュース画面を指しながらテレサさんが、ひきつった笑みを浮かべていた。

「はい?」

 この発言は、すさまじい威力を持って、私の全思考能力を停止させるのであった。

 横では、テレサさんが、あははははと、だた笑い続けていた。




 少女の名前は、相良テレサ。

 出会った時の年齢は14歳。

 父親の名前は、相良宗介。

 母親の名前は、相良かなめ。

 遺伝子的な母親は、テレサ・テスタロッサで、その卵子と相良宗介の精子で人工受精させ、相良かなめが代理母として出産する。

 ただし、それは、5年後の明日のクリスマスにである。

 世の中、様々なミステリーが渦巻いている。

 科学全般が発達し、神秘な出来事が科学的に解明されている現在においても、まだまだ謎な出来事は多数存在する。

 しかし、時を越えるというのは、様々な小説やドラマや漫画などで、いかにもよくありそうな使い古されたネタである。

 もし、テレサさんの言う事が本当だとすれば、それが現実に目の前で起こっている事になるのだ。

 衝撃の事実が明らかにされたとなると次は、テレサさんが本当にタイムスリップしたかどうかを確かめる必要性が出てくる。

 更に、それが事実として、テレサさんを無事に元の世界に返せるかどうか。

 更に最悪の場合、この地に留まらなければならないが、その際の戸籍等をどうして、どこで生活していくかという問題が生じてくる。

 ただ、私の心の中では、既にタイムスリップは本当にしちゃった事だと事実として認識していた。

 テレサさんを見ていると嘘を言っているように見えないのである。

 内面性を信じたといってもいいのであろうか?

 直感的に、

「ああ、この子は本当の事を言っているなあ。」

 と、感じていたのだ。

 その事実を裏付ける事をテレサさんは話し出した。

「確か来年の冬に急遽映画作成をすることになるんだそうです。賀東商事とミスリルの共同制作で『ふたりのテッサ』っていうタイトルなんですけどね。」

「ほほお。そんな事が起こるんですか。」

「いえ、そんなに冷静に構えていていいんでしょうかね?だって準主役級になるんですよ。」

「へ?誰が?」

 私に指を指すテレサさん。

「初めてお会いしてから、どこかで見た事のある方だなって思ったんですよ。今、思い出しました。ウィーズさんですよね?賀東商事やミスリルでの通り名って。」

 私は、テレサさんに本名しか名乗っていない。

 にも関わらず私の通り名をずばっと言ってのけた。



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