陣代高校に入学して早くも1年。
林水は、生徒会会長に就任していた。
2月に生徒会役員選挙があるのだが、(卒業する3年生にも投票権がある。)前生徒会役員全員の推薦により林水がおされ、新任投票の結果、みごと当選したわけである。
陣代高校の生徒会役員は、2月時点での1、2年生の中より生徒会長1名、副会長1名が選ばれる。
そして、新執行部に書記、次席書記、会計、次席会計、その他の役職の任命権が与えられる。
そして、次席書記と次席会計は、新1年生のクラス代表委員、副代表委員より選ばれる慣習があった。
林水は、1年の時に次席会計に押され、教師も知らない裏会計であるC会計を10倍にも膨れあげさしたのである。
もっとも、林水にしてみれば、前歴があったりするわけであるから、なんでもない事ではあるのだが。
さて、林水は、さまざまな情報網を使い、代表委員の情報収集を行った。
その結果、次席書記には、おっとりとした、しかし速読にかけては右に出るもののいない美樹原蓮。
次席会計には、不思議と魅力があり、ものごとをずばずばといい、それでいて、一人暮らしでうまく家計をきりもりしている千鳥かなめが選ばれたのである。
かたや、古風なやくざの親分の娘。
かたや、国連高等弁務官の娘。
なかなかに面白い人物がそろったものだなあと林水は思ったりしていたのであった。
そんな矢先、情報が入るのである。
千鳥かなめを尾行する者がいると。
「何故、うちの次席会計を尾行するのかね?」
「さあ?なんのことかな?」
人気の無い夜道、かなめが自宅のマンションに入ったところを見届けたその瞬間、いきなり背後から声をかけられ、びくっとする尾行者。
「まさかうちの生徒が尾行者とはね。しかも君だけではない。複数の人数でだ。いくら国連高等弁務官の娘とはいえ、15歳の少女を尾行するその目的。ウィスパードがらみですか。」
林水の言葉に驚く尾行者。
「なんで知っている?」
にやりとする林水。
「あまり、私の情報収集能力を舐めないでいただきたい。と、いうか、単にカマをかけただけですけどね。校長と繋がりのある事を確認したんですよ。そうなると、どうしてもミスリルがらみになるでしょうに。」
「おまえは、なにものだ?」
「親友の彼女の命を救えなかった男ですよ。そして、今度は、私の部下がそうなる可能性がある。」
沈黙があたりを支配する。
「まあ、私は、私なりに動かせてもらう。まあ、保険みたいものかな?」
そういうと、林水は尾行者に背を向け歩き出したのである。
(クルツ先輩。未来(みら)先輩。今度は、今度は失敗しませんよ。)
そう心でつぶやきながら。
「高校生が飲酒がどうこういう以前に、どうしてそうゆう渋い趣味なのかしらねえ。あなたは。」
陣代高校校長、坪井たか子は、生徒会副会長、林水敦信にしみじみとつぶやいた。
「それをいうなら、私をそうゆうふうにしたのは、叔母さんじゃないですか。私の性格の大部分は伯母さんに由来しているんですからね。」
甥の顔に戻り、林水は、伯母に文句をつけたりする。
あの事件、クルツ先輩と未来(みら)先輩の事件の時、必死にミスリルとコンタクトを取ろうとしていた林水。
しかし、自分の伯母がまさか、ミスリル情報部の人間だったとは、気が付かなかった。
また、伯母には大きな借りもあった。
中学時代、成績トップクラスで陣代高校よりも上の高校を狙えたにも関わらず、陣代高校に入学したいと両親に言った時、大騒ぎになったのだが、伯母の一言で全てが収まった。
「そんなに、私が校長をしている高校に敦信を入れたくないんですか?」
たったそれだけ。
つくづくすごい人だなと改めて思った一幕であった。
「そうですけどね。」
けらけら笑う伯母につられてにやりと口元をほころばせる林水。
千鳥かなめは、ミスリル情報部の陣代高校校長坪井たか子他、生徒に混じっている秘密護衛数人、そして、林水率いる諜報部による独自のサポート、そして宗介の3つの勢力によって守られている。
だが、かなめはまさか陣代高校入学時から、林水から守られているとは、気が付かないのであった。
当の本人は、今、絶望的な状況に置かれていたのであったのだが。
今日も陣代高校は、平和であった。
まあ、世間一般的には平和じゃないかもしれないけど。
フルメタ第1部「過ぎ去りし思い出」のSSだったりします。
「過ぎ去りし思い出」の最後の方を読み返してくれれば判りますが、林水は、相当に悔やんでいますよね。
実は、このSSの伏線なんですよ。
当初、このSSはすぐに書こうと思っていたのですが、のびのびになってしまい、そんなうちに「磯の香りのクックロビン」で校長先生の名前が公開。
ところが、DMを買い始めたのがその次のDMだった為、短編「同情できない四面楚歌?」まで待つ事にしたわけです。
校長室でつぼ焼きを食べる校長先生と閣下ってなんか親しい感じがやっぱりするんですよね。
校長先生ミスリル説とともに、私は校長先生、閣下親戚説も押します。
つまり、実の伯母が実はミスリルに関係していた。
しかし、林水は、それに気がつく事ができず、結局、未来(みら)先輩を救えなかった。
で、今回のSSは、先に伸びてしまった分、他の話もくっつけています。
何故、林水は親に反対されながら陣代高校に入学できたのか?
「追憶のイノセント」を元に校長先生が絡んだというものに仕上げました。
閣下も十分謎な人ですが、それにもまして謎なのが校長先生。
ちょっとばかし不十分な気がしないでもないですが、書いてみました。
ちょっとでもお楽しみいただければ幸です。