「少佐殿!!テサリストの大部分を制圧しました。残りは司令室にいるテサリスト総帥、マデゥーカス中佐が率いる司令部のみです!!」
今回の作戦には電光石火の早業で行わなければならない作戦であった。
始めのうちはそれは成功していたがさすがはマデゥーカス中佐。
混乱の中でも的確に情報を収集し、防御戦を挑んできた。
当初の予定ではこちらの損害10%で勝利を収めるはずであったがすでに40%の損害が出ていた。
本来の任務ならばこれは明らかに失敗である。
しかし、ここではそんな事をいってられないのだ。
デ・ダナンの乗員を全てマオリストにする為に内乱を起こしたのであるから。
「よし、最後は私が直接指揮をとる。」
そう宣言して私は通路を歩き出した。
(ふふふ、私は結構バカかもしれんなあ。)
通路を歩きながら私は過去の事を思い出していた。
マオがミスリルに入隊した時の新兵訓練の指揮にあたったのは私であった。
約3ヶ月の訓練は過酷を極めた。
ある時は灼熱の砂漠へ、ある時は豪雨の降るジャングルへ、ある時は廃墟へと場所を変え、装備を変え、訓練は進んでいった。
男に混じって汗だくになりながら黙々と訓練をこなす彼女を見ていていいなあと年甲斐も無く思ってしまう自分がここにいた。
が、私は上官である。
そして実際の戦闘ではそれがかせになって命を落とすかもしれない。
私だけならいい。
それが他の兵士の死を招くかもしれないのだ。
だから、私は努めてマオには辛くあたった。
だが、彼女は黙々と訓練に励んだ。
その姿は美しかった。
私はますます彼女に惹かれていったのである。
最後の訓練は真冬の北海道の日高山脈で行われた。
北海道の稚内から旭川を通り日高町、そして襟裳(えりも)町へと抜ける山脈が日高山脈である。
北海道を南北を貫くこの地で最後の訓練が行われた。
訓練は順調に進んでいった。
そして最後に一人だけで約5キロの雪中行軍をするという訓練が行われた。
それは過酷なものである。
町の中の5キロとは違うのである。
一面真っ白で積雪量はゆうに2メートルは超えている。
丘などもあり一歩間違えれば死を招く可能性があるのだ。
私は皆を送り出した約6時間後に目的地に向かって歩き始めた。
今回は敵中行軍との設定で目印となるポール等を立てない事、それに無線機を持たないで行軍するになっている。
もっとも私は非常時に備えて持ってきているが。
目的地の小屋にも装備一式を用意し万が一に備えてあった。
地形とコンパス、地図、太陽の位置などを確認しながら黙々と歩く。
が、山の天気は変わりやすい、突然猛吹雪が襲ってきたのだ。
しばらく様子を見たがいっこうに収まる気配はなかった。
私は安全な場所にテントを張り中に潜り込む。
無線機を取り出して目的地と連絡を取った。
おそらく全員到着しているはずである。
「少佐殿。マオ軍曹がまだ到着してません。」
それを聞いた時、頭が真っ白になりかけてしまった。
「吹雪が収まり次第、半径1,5キロを捜索せよ。常に3人で行動しトランシーンバーを携帯せよ。私も納まり次第捜索しながらそちらに向かう。」
無線を切ったあと、私は震えていた。
「マオ・・・・。無事でいてくれよ。」
吹雪が少し収まった。
が、捜索するにはまだ少し悪い気象条件だ。
しかも夜が迫ってきていた。
私はなにやら嫌な予感がしてあえて後500メートル進むことにした。
最後に送り出したのがマオである。
が、10時間以上たった今でもまだ到着していない。
遭難した事は間違いなかった。
(マオ、大丈夫か?)
すでに私は上官としての顔ではなく一人の男としての顔になっていた。
目を凝らし黙々と歩く。
が、すでに目標にしていた500メートルが近づいてきた。
もう駄目かと思った瞬間、近くの大木の下に妙にこんもりした雪を見つけた。
私はもしやと思い近づいてみる。
そこを手で掘り起こす。
何故か判らないが確信に近いものを感じていた。
そして、中から気を失っているマオを見つけ出したのである。
「マオ、マオ!!しっかりしろ!!」
しかし返事はない。
が、脈はある。
さすがはミスリルに入隊を許されただけあり、強靭な生命力を持っている。
が、さすがにこれ以上は無理であろう。
すぐにでも救援を求めたいが、また吹雪いてきた。
これでは救援隊が2次遭難になりかねない。
私はここでテントを張り待機することにした。
急いでテントをはり、マオをテントの中に入れる。
お湯を沸かす機材に火をいれなべに雪を入れて溶かす。
これだけでもテントは少し暖かくなる。
もっともあまりつけすぎていると一酸化中毒になってしまうのだが。
そして防寒具を脱がしていく。
彼女の体温で雪が溶け、それがまた凍って体についている為だ。
裸にしてどこか外傷が無いか調べる。
頭部に大きなタンコブが出来ていた。
おそらく何かに頭を直撃され気を失ってしまったのであろう。
濡れている体をタオルで摩擦するとうにして拭きとっていく。
そして毛布をかける。
その時、初めて彼女の裸の姿を意識してしまい年甲斐もなく顔が火照ってしまった。
無線機を取りだし目標の小屋に連絡を入れる。
無線の向こうで歓声が上がる。
「翌朝以降、吹雪きが止み次第救助を要請する。その際連絡を入れてくれ。こちらからは0700に連絡をいれる。」
そういって無線を切る。
そして私は裸になりマオを抱きしめた。
体温で暖めてやるためだ。
髪の毛をいとおしく撫でながらいつしか私も眠りについていたのである。
カサ。
かすかにマオが動いたのに気が付いた。
私は目を覚ましマオに呼びかける。
「うーーん。あ、少佐、って、キャア。」
かわいい悲鳴を上げる。
「すまんな。軍曹。」
が、それでマオは全て理解したようだ。
「すいません。少佐。ご迷惑をおかけして。」
そして状況を説明していった。
吹雪いてきた為これ以上の行軍は危険と判断してこの木の下でテントを張り、待機することにした。
だが木の上から氷の塊が落ちてきて後頭部に直撃、そのまま気を失ってしまったのだ。
「心配したんだぞ。マオ。」
私はマオを見つめながら優しく言った。
マオはびっくりした顔をした。
「少佐。私、私、嫌われているかと。」
「私は上官だ。だから、心を閉ざしてきたんだ。だが、君が遭難したかと思うと。」
マオは私に抱きつきキスをした。
それはとても甘美なものであった。
「私も少佐の事が好きでした。」
もう、言葉はいらなかった。
ふたりだけの愛の語らいは今始まったばかりであった。
コツコツコツ。
そう、あの時、私はマオと結ばれた。
そしてそれと同時に私の部下にもなった。
普段は冷静な上官としてふるまう。
マオもそれを受け入れていた。
「だって私の為にあなたがミスを犯すなんて嫌だもの。遠慮無く私を見捨ててね。」
そう、マオは言ってくれた。
だから今でもその事を常に考えて作戦指揮をしていた。
「少佐殿、着きました。」
「うむ爆破準備をせよ。それから司令部に無線を繋げ。」
私はマイクを受け取る。
「マデューカス中佐。テサリストには勝ち目がないと思うのだが。ここは潔く降伏してマオリストとして幸福になろうではないか」
艦橋は怒涛の声につつまれたようだ。
すごい罵声が聞こえてく。
「たしかにこちらが不利ではあるがね。カリーニン少佐、ここはテサリストとして最後まであがきをさせていただく。」
私は思わず微笑んでしまった。
「そういうと思っていましたよ。それではこちらも全力で叩かせてもらいます」
無線を切る。
「爆破!!」
ボッカーーーン!!
「突撃!!殲滅せよ!!」
私はマシンガンを乱射しながら戦闘になって突っ込んでいった。
(ふふふ。マオ。こんな私をどう思うかな?)
そう、考えながら。
この投稿小説は、当HP特別記念カウント10000HITを踏んだゆーいちさんにお送りしたものです。
ゆーいちさんのHPで私が10000HITを踏んだ時、テッサのイラストを頼みまして、そのお礼に今回の話の敵役?であるマデューカス中佐とテッサの話である、「第4部 トゥアハー・デ・ダナン内乱? サイドストーリー1「カリーニン少佐の回想」」を送りしてましたので、もしゆーいちさんが踏んだらこれを送ろうと思っていました。
だから、結構楽に書けました。
実はカリーニン×マオ派である私。
クルツやテッサや宗介との話は結構ありますがこの話は無いんじゃないかなあなんて思っております。
カリーニンとマオってなんかお似合いだと思うんですよね。
おとなの関係って感じでわりきれていそうで。
第1巻のクライマックス前、マオがカリーニンに宗介救出の為、詰め寄るシーンがありますよね。
感情をあらわにするマオ。
それを冷静にしりぞけるカリーニン。
でも、ちゃんと救出作戦を考えている。
この場面が私がカリーニン×マオ派になった要因なんですよ。
みなさんは、どうですか?