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小説の世界で公開停止中の作品 フルメタル・パニック



過ぎ去りし思い出




(だから、そんな悲しそうな顔をしないで しないで しないで・・・)

「待ってくれ!俺は、俺は、まだ何もお前にしてやっていないんだぞ!お願いだから待ってくれ〜〜〜!!」

 がばっ!!

 俺は、毛布をはね飛ばしながら起き上がった。

 もう夜も近いのか窓から日が暮れる瞬間の独特の漆黒のブルーの景色が映し出されている。

 額からは、多量の汗が吹き出ている。

「どうしたクルツ。大分うなされていたようだが?」

 同僚のソースケが、少し心配そうに聞いてくる。

 と、あるマンションの一室。

 ここで、俺、クルツ・ウェーバーは、メリッサ・マオ曹長、相良宗介軍曹と共にウィスパードである千鳥かなめの安全を守る為、極秘警護任務についている。

 今は、マオ姉が、学校から帰ってきたソースケと交代してかなめの警護をしているはずだ。

 こいつと居ると何かと面白い事が有るが、正直今はそれを期待するような気分には、なれない程、俺は気が滅入っていた。

「いや、な〜に。昔の女に追い掛け回される夢を見たのさ。いやそいつがさ〜〜、急にみっともねえデブになって俺を無理やりベットに押し倒してさ〜〜。正直参ったぜ!」

「そうか。俺には、よく分からないが・・・」

 そういってまた黙々とソースケは、コンバットナイフの手入れを再開した。

 まあ、なんとか誤魔化す事は、出来たかな?

 しかし、何で今頃になって思い出しちまうかな?

 いや、思い出すのも必然か・・・

 そう思いながら次の交代に備えて再度眠りに付こうと毛布をかぶった。



 深夜、夜が俺の警護の担当時間だ。

 横でソースケがすやすやと寝息をたてて眠っている。

 あの後、結局ウトウトとしか出来ず眠る事が出来なかった。

 完全に睡眠を取れていない筈なのだが、不思議と眠気は襲ってこない。

 やはり、あの夢が原因なんだろうなと思う。

 あの出来事から暫くうなされるように見続けた夢。

 あの時、俺はソースケより1才若い15才だったな。

「もうあれから4年経ったのか・・・」

 俺が、この殺伐とした世界に進む事ことになったあの忌まわしき事件・・・

 いや、実際には事故として闇に葬り去られたあの出来事こそ俺が夕方に見た夢だったのだ。

「チッ、未だに忘れられねえとはな。情けないぜ」

 と、口に出してみたもののあの事は、ぜってえに忘れないなと思う俺であった。



 俺の父親は、ドイツの新聞の特派員でその為、小さい頃から俺も日本に住んでいた。

 父親の教育方針で俺は、地元の日本の中学校に通っていた。

 自分で言うのもなんだがルックスには、自信があった。

 なにせ雑誌のモデルもバイトがてら、何回かしていたしね。

 そんな俺だが、女性と付き合った事が無いのだ。

 いや、何ね。

 結構モテタから女性陣が互いの牽制があったらしく、誰も俺に告白してくれなかったんだよね〜〜。

 そして、一方俺はというと、あまりにモテたからうざったくて特定の奴と付き合おうとは、思っていなかったんだよね。

 今、思えば凄く勿体無いね!

 それこそ選り取りみどりじゃないか。

 そんな感じだったんだが、実は一人気になる女が居た。

 新聞局局長、如月未来(きさらぎみら)

 それ程可愛い居って訳でもないんだが、どうにも気になる。

 あ、いい忘れたけど俺一年の頃から新聞局に居たんだよね。

 いや、父親の影響もあってさ。

 将来は、記者になりたいと思っていたんだ。

 一応、新聞局副局長だったりする。

 彼女とは、思えば長い付き合いだ。

 小学校からの腐れ縁。

 俗にいう幼馴染って奴だ。

 彼女の父親は、報道カメラマンで彼女もその影響を受けてカメラを趣味としていた。

 一方の俺は、記者としての影響を受けている訳だから当然コンビを組むことが多くなる為、何時も一緒に居た。

 で、お約束というか何時の間にやら俺は、未来の事を好きになっていた訳だ。

 だが、告白する勇気がなかった。

 む、誰だ?

 そこで笑ってる奴!!

 仕方ないだろ!

 当時、女と付き合った事が一回も無かったんだから。

 臆病にもなるってもんだろ?

 そうそう。

 未来の外見だが、眼鏡をかけて髪は漆黒のセミロング。

 学校の成績は良い方ではなかったが、雑学には強く俺も成るほどと唸ることもしばしばあった。

 活動的でよくあちこち飛び回ってはいたが、けして騒がしい訳でもなく、どこか謎めいた目をしていた。

 そんな目に俺は、惹かれたのかもしれないな。



 そんなある日。

 2人して近所の高校の学校祭の取材に行く事になった。

 この高校で行われるクラス対抗歌合戦や個人対抗歌合戦は、地元ではすごく有名で様々なパフォーマンスがある事で知られており、芸能界デビューした奴も居る位だ。

   この日は、土曜日で学校の登校日なのだが、取材の為という事で俺と未来だけ特別休日となったのだ。

 で、俺は、舞い上がっていた。

 勿論この高校の学校祭に行けるというのもあるが、未来と2人で学校祭に行く。

 そう、まるでデートみたいではないか!!

 で、さり気無くせっかくだから私服で行こうと未来に話してみたらすんなりと

「そうしましょうか?」

 って、言った未来は、どこか嬉しそうに見えたのは、俺の気のせいだったのだろうか?

 部室で明日の準備をしながら机でカメラの手入れをしている未来に俺は、ニコニコしながら言った。

「いや〜〜、楽しみな取材だよな?未来」

「そうよね〜〜。本当楽しみ!!私一回行ってみたかったのよ」

 そういって、未来は、にっこりと微笑んだ。

(うっ、可愛い過ぎる)

 俺は、未来を押し倒しそうになる感情を必死に押さえ込みながら軽口を叩く。

「さぞかし、美人なお姉様も居るんだろうな。へっへっへ!!」

「はあ、勝手に言ってなさい。クルツ君。貴方、本当昔から変わらないわね〜」

 さも平然と言ってのける。

 さすが、我が幼馴染である。

 少々の事では、動じない。

「う〜む。そう平然と言われたら張り合いないぞ。未来よう」

 さも無念そうな顔をする俺。

 んでもって未来は、こうのたまった。

「クルツ君のその性格には慣れてますもの。それにクルツ君からそれ取ったら何残る?」

 おいおい(汗)

「あ、言っとくけどこの美貌とか言うのは、無しね!!」

「むう、先に言うなよ!!」

 取材用の超小型テープレコーダーを振り回しながら抗議の意を示した。

 所が、何時の間にか鞄を手に持って部室から出て行こうとする未来がいた。

「むう、何時の間にそんな所に。お主、忍びか!?」

「はあ。馬鹿な事を言ってないで早く帰りましょ!!明日は早いんだから」

(こういうしっかりとした所は、ちょっとムカツクけど結構俺の暴走抑えてくれてるしな〜〜)

 と、心の中で思って騒ぐのを止めて鞄を取りに奥の棚にいった。

「早く、早く!!日が暮れちゃうわよ」

「へいへい」

 俺は、慌てて鞄を持って部室の外に出たのであった。



 外は、日が暮れて漆黒の闇に覆われようとしていた。

 郊外にある小高い丘の上にある中学校から見る景色は、とても神秘的である。

 そんな中を若い2人が静かに歩いていく。

 何故か未来は、黙っている。

 そして俺も何故だかそうしている。

 普段は、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら帰るのだがどういう訳か?

 今日は、どちともなく静かにしずしずと歩いていた。

「私ね、この日が暮れた後の漆黒の青い空が好きなの。なんか吸い込まれていきそうでもう二度と戻ってこれない世界へと導いてくれそうでね」

 未来は、そう静かに語り出した。

 俺は黙って聞いていた。

「そこは、神秘に満ちた安楽の世界か?それとも暗黒が支配する恐怖の世界か?この漆黒の青い空を見るたびにそう思うの。とっても好きなのに、でもどこか恐い感覚・・・」

 なんか未来が、少し震えているような気がする。

 俺は、未来の手を握った。

 普段の未来とは、違う!

 そう思ったから・・・

「今ここに俺がいるじゃないか!!そりゃちょっと女好きで煩くて馬鹿な奴だけど女の子を守る位の事は、出来るぞ!!」

 今の未来は、何時ものの明るくてしっかりした未来では無い!!

 今にも崩れ落ちそうなそんな気がしたのだ。

「本当に守ってくれる?こんな私を守ってくれるの?何時もクルツ君の事をからかっている私を・・・」

「ああ」

「本当に守ってくれるの?」

 未来は、涙を零しながら俺の胸に寄り掛かった。

「可愛い女の子が、困っているのを放っておける訳無いだろが!それとも何か?俺じゃ頼り無いかな〜〜」

 ちょっと拗ねたように俺が言うと未来は、ふるふると首を振った。

「そんな事ある訳無いでしょ!!小さい時から頼りにしてるんだから・・・」

「本当かな〜〜?」

「本当よ」

「本当に?」

「うん・・・」

「う〜ん、信じられない」

 少しでも元気つけようと少し意地悪をしてみた。

 そのつもりだったのだが・・・

 未来は、俺の顔に近づいてきて・・・

 そして唇が重ねあった。

「これで、信じてくれた?」

 突然の事で俺は、固まってしまった。

 少しはにかみながら未来は、恥ずかしそうに言った。

「は、はい」

 俺はというと固まったままだった。

「ああ、すっきりした。明日頑張って取材しましょうね!」

「はい」

 まだ固まったままの俺。

「それじゃ、また明日ね〜〜!!」

 元気になって駆けていく未来。

 俺は、未だに硬直した状態で見送っていた。

 信じられなかった。

 女の子にキスをされてしまった。

 しかも好きな女の子に・・・

 10分程してようやく呪縛から解き放たれた俺は、嬉しさと戸惑いで未だに混乱していた。

 未来は、昔から俺の事が好きだったらしい。

 嬉しさが込み上げてきた。

「でもな〜〜。女の子ってよく分からない・・・」

 満天の星空の下で俺は、そう呟くのだった。



 朝

 今日は、日曜日かと思いながらクルツは、かなめのマンションを眺めていた。

 一夜を昔の事を思い浮かべながら過ごしてしまった。

「まあ、あんな夢見た後だからね〜〜」

 と、一人呟くクルツ君。

 う〜ん。

 俺ってばお茶目!!(おいおい)

「取り合えず今日は、かなめちゃんとその親友の恭子ちゃんとでも接触でもして知り合いでもなりましょうかな〜」

 何時もの状態に戻った俺は[かなめちゃん達とお友達になろう作戦]を何時ものように練っているのであった。

 うん。

 やっぱりこうじゃなきゃ俺らしくないもんな。

 そうだろ?

 未来・・・




 今日は、クルツ君のナンパ大作戦を実施!

 ものの見事に成功!

 相手は、かなめちゃんと恭子ちゃんだったりする。

(かなめちゃんと恭子ちゃんは、やっぱり可愛いね〜)

 任務とは別の意味で美少女に接近してものの見事に親しくなって喫茶店でコーヒーを啜っている俺の感想は、まずこれであった。

(なんせ俺は19才、二人は現役女子高生!釣り合いも取れてるしね〜〜)

 趣味丸出しな状態。

(もっとお近づきになりたいもんだね〜〜。んでもって、ああして、こうして、ああやって、うふふふふ)

 妄想大爆発状態である。

 そんな俺の変な様子にふたりは気が付かないはずも無い訳で。

「あのークルツさん。顔にやけてますよ?」

 ケーキを食べる手を止めて不思議そうに問うかなめちゃん。

 そこに恭子ちゃんが突っ込んだ。

「かなちゃん。あの表情は、うら若き乙女を狙う狼の顔よ。クルツさん、スケベ〜な顔してますよ〜〜」

 うむ。

 可愛い顔して恭子ちゃんって結構、世間をよく知っているね。

「そりゃ、可愛い女の子、しかも2人と知り合って変な想像しない奴は、男じゃない!!第一、何も感じなきゃ女性に失礼ってもんだ!!」

 ここぞとばかりに、吠える俺に思わず拍手を送るかなめと恭子。

「いや〜〜ここまではっきり言い切られると逆に清清しいわね!恭子」

「うん、そうだね、かなちゃん。でも襲そっちゃ嫌よ?」

 念の為、釘をさすのを忘れないあたりなかなかしっかりした子である。

「ところでクルツさん?いかにも初めて日本に来ましたってな感じで私たちに話しかけてきたけどその後の対応は、なんなんです?」

 かなめちゃんは、さも不思議そうに訪ねる。

 恭子ちゃんもうんうんと頷いて更に俺に問い掛ける。

「それに道教えてくれたお礼にお茶でもって言ってここの喫茶店に連れてきたけど妙に場慣れしてるっていうか、マスターと挨拶してましたよね〜」

 今度は、かなめがうんうん頷いて、

「しかも、すぐ近くの喫茶店に入らないで、この近辺で話題のお店へ真っ直ぐ直行しましたよね?」

「さあ、白状しちゃいましょうね。クルツさん」

 眼鏡をきらりんと光らせて恭子ちゃんが俺を睨む。

 結構恐いんですけど・・・

 まあ、しかしよく観察しているものだというより俺が油断しまくっていたのか?

 ついつい昔に戻って普通に接していたみたいだ。

「バレちゃったか〜〜!!鋭いね〜〜」

 にやりとして、俺は種明かしをした。

「実は俺、15才までここら辺に住んでいたのよ」

「やっぱりね〜」

 恭子ちゃんが頷く。

「道理で、日本語スラスラな訳だ」

 かなめちゃんが納得したといった顔で言った。

「そういうかなめちゃんも英語結構上手かったね〜〜。どして?」

 知っているくせに訪ねるクルツ。

「あ、私も中学の頃までアメリカに住んで居たんです。ちょっと錆付いていますけどね」

 テレ笑いを浮かべるかなめちゃんにラブリーです。

「成る程ね。あ、それでだね。話戻すと、そんな訳でこのあたりの事を知っているって訳。バレないようにコーヒーなんか頼んでるけど、ここのお勧めメニューの[日替わり和菓子セット]のファンだったんだよ」

「へえ、クルツさん。渋いですね〜〜」

 かなめちゃん。

 少し意外な感じって顔をしてるね。

「緑茶を啜りながらあんこの付いた甘い和菓子をほうばる。ああ、涎が・・・」

「ナンパを成功させる為にあえて自分の好物を我慢する。ナンパ男の鏡?」

「イエス!!」

 即効でかなめちゃんの問いかけに答える。

「うわ。言い切ったよ。かなちゃん。でもクルツさんの好物って外国人にしては変わってますよね。かなちゃんのドクターペッパー好きとタメ張るかも?」

「ちょっと、恭子どうゆう意味よ!!」

「うわ〜〜かなちゃん。ごめ〜〜ん」

「ははは。それだけご当地の食生活に馴染んでるって事だよ」

「そうそう。クルツさんの言う通りよ。だから、私のドクターペッパー好きも何ら不思議じゃないのよ!!」

 ここぞとばかりに力説するかなめちゃんにケラケラ笑っている恭子ちゃん。

 実に微笑ましい光景である。

 4年前のあの日ここで、こんな感じで未来(みら)と会話を楽しんでいた事を、ふと、クルツは思い出すのであった。



 昨日みたいな出来事があったにも関わらず、背伸びしてビシっと決めたスーツをと考えないのが、俺の良い所じゃないかなと思っている。

 何故か?

 密かにに想っていた如月 未来[きさらぎ みら]にキスをされて舞い上がっているにも関わらず、ちゃんと仕事である新聞部の取材をこなす為、普通にそれなりの格好をしている。

 まあ、期待してないと言えばそれは嘘になる。

 あったり前だよな〜〜。

 普通の男としては。

 でも俺は、そこを割り切らなければならないと思っている。

 だって、そうしないと普段から底抜けに軽い俺の性格がいつか災いすると思うから。

 やる時はやる。

 そんな人間に成りたい。

 そして、それこそが最低限、未来に相応しい男だと思うから。

 ちょっと格好付け過ぎかな?

 でもこれが俺の目標だ。

 朝8時

 すぐ近くの未来の家へ迎えに行く俺は、そんな事を考えながらゆっくりと歩いていた。

 すずめがちゅんちゅんとさえずっている。

 絶好の取材日和だ。

 そうこうしているうちに未来の家に着いた。

 がちゃ

「おお〜〜い、未来〜〜。取材に行くぞ〜〜!」

 ドアを開けて叫ぶ俺。

 もう何回も来ているからわざわざ呼び鈴は、鳴らさない。

「ちょっと待っててクルツ君!カメラの再点検している所なの」

 奥の未来の部屋から返事が聞こえた。

 まあ、何時もの事なので勝手に台所で番茶を注いでくつろぎながら未来を待っている事にした。

 大体10分位して未来が用意を整えて部屋から出てきた。

 カメラバックを担いでいるジーパンとジャケット姿の未来は、いつもながらビシッと決まっている。

「本当にクルツ君って取材の時は、30分前には、迎えにくるのよね〜〜。何で他の事はルーズなの?」

 取材の時は、大抵、未来とふたりっきりになるからな。

 だから楽しみで時間より早く行動しちまうのさ。

 まあ、男の純情って奴かな?

「何時もの事だ。気にすんなよ。未来」

 そんな風に考えている事をおくびにも出さずに軽くいなしながら急須にお湯を注いで湯飲みにお茶を入れてやる俺。

 普通は逆なのだが、何時もの事なので少しも気にもならずこうしている。

「ホイ、お茶」

「あ、ありがとね。クルツ君。それで学校祭の取材のスケジュールだけど・・・」

 早速スケジュールを確認する俺達であった。



 バーン、ババーン

 お祭りに付き物の花火が上がり遂に学校祭が始まった。

 まず校長先生へ取材の挨拶に伺った。

 年は40代後半の女性で、リンとして毅然とした、それでいて優しげな目をした方だ。

「もう連絡は受けているのだからわざわざ挨拶に来なくても良かったですのよ?」

 来賓用のテーブルに座りお茶を勧めながらにこやかに微笑んだ校長先生は、こう言って下さった。

「いえ。それでもご挨拶するのが当然の事と思っております」

 丁寧な言葉で言う未来。

「実は、ご挨拶もありますが、少し学校の事などをお聞かせ願いたいと思いまして」

 早速記者の顔になって校長先生に取材を開始した俺。

「ええ、いいですよ」

 快く受けて下さる。

 早速幾つか事前に考えていた質問をしてみる。

「高校が出来てからずっと歌合戦が続けられている訳ですよね?」

 こうして取材が始まったのである。



 凄い!

 これが歌合戦を見た感想だ。

 歌唱力が凄い!

 一体どこで練習したんだと言いたくなるほど凄い。

 一糸乱れぬダンス。

 素晴らしいアクションシーン。

 照明とドライアイスなどを使った舞台演出。

 挙げ句には火を吹く。

 本当に高校の歌合戦か?

 こりゃ、有名にもなるわな。

 一般外来の入場チケットがプレミアムに成る訳だ。

 未来は夢中になって写真を撮っていた。

 やっと終わって一息ついた所で俺は、未来に話しかけた。

「いや〜〜凄いね〜〜。躍動感に溢れていて。こんな学校なら入りたいやね」

 クスリと笑って未来は言った。

「クルツ君のレベルじゃここ無理だよ」

 アッサリと言ってのける未来。

 おいおい。

「うみゅ〜〜う。せめて『頑張って一緒に通いましょうね。ウフ』位、言えんかね〜〜」

 未来は微笑みながら、

「事実、事実」

 と、あっさりのたもうた。

 はあ、と思わず溜息を付く俺に対して未来は天使の微笑みを浮かべるのであった。

(やっぱ未来には、かなわねえや。尻に轢かれてるてるな俺・・・)

 などど思いながらも何故か楽しい俺であった。




 未来(みら)にからかわれながらも精力的に取材をこなしていく俺。

 あまりに一心不乱に取材する俺達に関心しつつも校長先生が、ここら辺までにしてはと言ったのは、もうすぐ正午になろうかという時間だった。

「もう12時を回りますよ。土曜日の授業はお終いの時間でしょ?」

 確かに学校に行っていれば丁度放課の時間である。

「ここら辺で自由時間にして息でも抜きなさい。お二人さん。恋人同士デートを楽しむのもいいもんですよ?」

 けたけた笑いながらそれではと言って応接室を去っていく校長先生を眺めながら俺は赤面していた。

 別に普通に取材をしていたつもりだが、校長先生は俺達が互いに好きあっていることを見抜いたらしい。

 さすが教職者。

 鋭い。

 未来も少し頬を赤らめていた。

「ああ、ええと。お姫様、私と少しお付き合い願いますか?」

 思いっきりキザにいってみせた俺の言葉に未来は、くすりと笑みをこぼして

「はい、喜んで。王子様!!」

 と、答えた。

「くくく」

「ふふふ」

 2人して笑いながら応接室を出るのであった。



 こうして、はからずも初デートとなった。

 2人で色々と見て回り何時の間にかか自然に手を繋いでいたりもした。

 たこ焼のソースを頬につけて未来に笑われたりお化け屋敷でお化けを苛めて遊んだり。

 壁新聞の論評をやってお兄様、お姉様方に睨まれたり絵画を鑑賞したり。

 そんな中、ふと未来が足を止めた。

 お約束というかお祭りに良くある射的ゲーム。

 学園祭というよりもお祭りの縁日のような雰囲気なんだよね〜〜。

 ここの学校祭は。

「どした未来?何か欲しいものでもあるのかな〜〜?」

 指を指す未来。

 その先にあるのは、小さいケースだった。

[30m先の木札を10発以内で倒した方に進呈]と書いてある

 で、そこを見ると、ご丁寧にその回りに二重、三重もの商品が並べられて普通じゃ取れない場所にある木札。

 ケースの中は指輪が2つ。

「おや、お客さん。お目が高いですね〜〜」

 店番をしていた男子生徒が関心したというように話しかけてきた。

「綺麗な指輪ですね。水晶ですか?」

 うっとりとした表情で指輪を見つめる未来。

 うん。

 やっぱり未来も女の子な訳ね。

「実はこの指輪、うちの父の経営する宝石店の一番安い水晶の指輪なんです」

「はあ〜?普通は高いとかそういうんじゃないの?」

 思わず突っ込んだ俺に店員(としよう)は、にっこりと笑って答えた。

「こんな所でしかも射的で高価なもの置く訳ないでしょう?」

「まあ、それもそうだわな」

 思わず納得してしまう俺。

「それほどいい石を使っている訳も無く原価は4、5千円、売値で1万円位のものです。でも技術者が精魂込めて作った指輪ですよ」

「俗に言うちょっとしたアクセサリーって奴か」

「はい。沢山作ったそうなのですが、どういう訳かこれだけ残ってしまいまして。で、学園祭で射的ゲームをやるって言ったら父が景品にしろと私に譲ってくれたんです」

「うわあ。太っ腹なお父様ですね?」

 未来が関心したように呟く。

「父が言ってました。他の指輪はあっという間に売れたのにこの指輪だけずっと売れ残ったまま。もしかしたらこの指輪は、人を選ぶ好運の指輪じゃないかって。店に置いておくよりも世間に出して自然に運命の持ち主に渡ればいいって」

「うわ。ロマンチスト全開?」

 突っ込みを思わず入れてしまう俺に対して店員は、苦笑を浮かべていた。

「ははは。まあ、否定はしませんが。で、ただ簡単に取られるのも何なので意地悪く絶対取れない所に置いてある訳です」

 成る程。

 そういう訳か。

「ねえクルツ君、やってみてくれない?ここのお金私が払うから」

 完全に信頼しきった目で俺を見る未来に対して、俺はニッコリと微笑んで自分の財布から500玉を取り出して店員に投げ渡した。

「やりますか。指輪を狙うチャンスは始めの10発500円分だけですよ」

 そう言って取り出したエアーモデルガン。

 しかも拳銃だったりする。

「これでお願いします」

(モデルガンねえ。やっぱ違うね。ここの高校は)

 と、思う俺であった。

 普通の景品までの最大距離は15m

 そして指輪の札までは30m

 これがどういう事かお分かりであろうか?

 渡されたのは拳銃である。

 よくテレビドラマとかで銃撃戦をやるが、あんな離れた所から狙って的に当てるなんて無理なのである。

 世の中にある銃火器の命中精度の良し悪しのひとつに銃身が長いか短いかという事が上げられる。

 弾丸が長い間銃身を通過する事により、より安定した直進性を生み命中度のアップに繋がるのである。

 例えどんな銃の名手でも拳銃は、あくまで近距離用の武器なのである。

 パン

 まず、一発撃ってみる俺。

 見事に10m先にある景品に当たった。

 パン、パン、パン

 続けさまに3斉射、今度は15m先だ。

 始めの1発が僅かに右にずれたが残り2発は景品に当たった。

(近距離ではそんなにズレは無いな)

 残り6発。

 景品に弾が当たるにたびに歓声を上げる未来。

 しかし今俺には、それに答えるゆとりが無かった。

 パン

 30m先の指輪と書かれているらしい木の札に向かって撃った。

 弾は大きく右に外れた。

(今のが無風状態)

 暫く待つ。

 左からの強い風。

 パン

 弾は、更に大きく右に外れていく。

 パン

 すかさず修正して1発。

 ビシ

 指輪の木札を狙うのに、一番邪魔な景品に当たったが倒れなかった。

 少しずれただけだ。

(ち、威力が弱すぎる!計算違いだ!)

 しかしこれで銃の癖は完璧に掴んだ。

 何時の間にかか観客が増えていた。

 これは後で知った事だが、学園祭前日にテストを兼ねて生徒に商品付きで試射をさせたらしい。

 でも、誰も30m先の的を倒す事が出来なかったとか。

 で、果たしてあの指輪を取れる奴がいるのかと賭が行われていたそうだ。

 大勢が取れないに賭けていたのだが、30m先の邪魔な景品に当てたという情報があっという間に広がったみたいだ。

 回りが騒がしくなる。

 やれ当てるなだのやじが飛びまくる。

 しかし無表情の俺。

 ふと未来の方を見ると静かな目で俺を見詰めている。

 未来だけは、純粋に俺の味方だ。

 そう思うと力が涌いてくる感じがした。

 残り3発。

 なかなか撃たない俺に野次馬が騒ぎ出した。

 がやがやがやがや。

「早く撃て!!」

「遅いぞ!!」

「金掛かってんだ!」

 まあ、煩いったらありゃしない。

 集中力が途切れそうになった瞬間

「うるさい〜〜〜!!」

 未来が切れた。

「クルツ君は、ゲームを楽しんでるでけなの。なのにごちゃごちゃ外野うるさい!黙れ!!」

 一気に静まり返る野次馬。

 俺は軽く手を上げて未来に感謝の意を表した。

 そして静かに目を閉じる。

 風の音を感じる。

 横に置いてある指輪が徐々に30m先の木札に重なっていく。

 そう、重なっていくのだ。

 風のささやき。

 木々のざわめき。

 世界中の様々な意志が伝わってくる感じがする。

 風が止んだ。

 今だ撃て!!

 何者かの意志が聞こえた!!

 パン

 目を開いたと同時に撃つ俺。

 その数瞬後に大きく左を狙って撃つ!

 1発目は、邪魔な景品を右にずれさせたに留まった。

 残り2発は大きく左にずれている。

 誰もが外したと思った。

 だがその時奇跡が起こった。

 これまでに無い強い強風が左から右に吹き抜けたのだ。

 そして今ずれたばかりの景品の横をすり抜け、指輪の木札に命中した。

 ビシ、バシ

 まるでスローモーションを見ているかのようにゆっくりと木札が倒れた。

 うお〜〜〜〜!!

 その瞬間、すごい歓声が沸き起こる。

 誰もが信じられないという驚きに満ちていた。

 未来が俺に抱き付いてきた。

「クルツ君なら絶対取ってくれると思っていたわ!!」

 ひゅうひゅう〜〜!!

 やっかみのやじが飛ぶ。

 真っ赤になる俺と未来。

 店員が水晶の指輪を持ってにこやかに話しかけた。

「やはり、父の言った通りですね。お約束の指輪です。こっちが男性用、未来さんでしたっけ?はい、で、こっちが女性用、クルツさんはい。では、指輪の交換と行きましょうか〜〜〜!!」

 いきなり明るく振る舞う店員。

「ひゅう〜いいね〜〜。色男!!」

 更に赤くなる俺と未来なのであった。



 本当に楽しいデートだった。

 帰り際、校長先生が話しかけてきた。

「楽しんだみたいですね。あ、そうそうよければ来年2人でここに進学しなさい。気に入りましたわ。2人共」

「はあ〜〜〜?」

 思わず口に出た言葉。

「この高校には、校長推薦と生徒会長推薦っていう制度があってね。高校入学資格の有る人なら簡単な試験で入学出来るシステムがあるの」

「そんなのあるんですか?情報収拾しましたけどそんなの知りませんでした」

 未来も驚いて聞いた。

「この事を知っているのは、校長と生徒会長だけなのよ。あなた達のその取材に対しての熱意にちょっと情報提供よ。でも、ここだけの話って事でね」

 クスリと笑って校長先生は続けた。

「熱意のある子供達こそ本当の意味での優等生というのが当校の考え方なの。色々調べて今回は貴方達が私の目に止まったって訳ね。貴方達の中学校に掛け合ってここに来れる環境を整えたの。びっくりした?」

 ひ、ひえ〜〜。

 すげえことやる高校だ!

 未来なんて唖然として口も聞けないらしい。

 もっとも俺は記者としての心構えでいたから冷静でいるけど。

「じゃあ、試されていたって事ですか?」

「怒った?」

「いえ、嬉しいです。こんなちゃらんぽらんな男を認めてくれるとは。すごく感謝します。でも本当にいいんですか?」

「勿論。いいんですよ。未来さんは?」

「は、はい、もう、なんていったらいいか。いえ、宜しくお願いします。ここに入っても勉強遅れないようにしないといけませんね。そこそこにレベルが高い進学校ですし」

 少し緊張気味に答えた未来。

 あ、そうか。

 ここ、進学校だった。

「一応、余程の事が無い限りで卒業出来るけどそれなりに頑張って貰わないとね」

 そう言ってにっこりとする校長先生であった。

(この高校はまだまだ秘密がありそうだな)

 記者としての感。

 そう思う俺であった。

「それでは、失礼致します」

 未来が丁寧におじぎをした。

 そんな俺達を遠くから見ている存在に俺達は、気が付いていなかったのである。



 帰りに取材の成功と進学決定の打ち上げをやろうという事で喫茶店に立ち寄った俺と未来は、興奮冷めやらぬ状態で話していた。

「まさかこんな展開になろうとは思わなかったよ。未来は予想出来たか〜〜?」

「出来る訳ないわよ。クルツ君。でも本当に新聞局で頑張った甲斐があったわね」

 感慨深めに言う未来。

「色々な経験出来たしな〜〜」

「クルツ君たら日本の武器についての取材に行った時に火縄銃に興味もっちゃって。あの時百発百中だったんだよね。確か?」

 懐かしそうにいう未来。

 そう、俺が射撃が得意な訳がこれなのである。

 取材先のおじさんが俺の事をえらく気に入って射撃の訓練をしてくれたのだ。

「あのおじさん、よく撃たせてくれたよな〜〜。まあ、もしも記者にならなければ殺し屋にでもなるかい?」

 けたけた笑いながら答える俺。

 こんな楽しい時間が永遠に続けばいい。

 あの時そう俺は思ったんだ。

 そう・・・




「クルツさん?」

「クルツさ〜〜ん。朝ですよ〜〜」

 かなめちゃんと恭子ちゃんが、俺に声を掛けていた。

 二人がじゃれ合っている内に昔の事を思い出していたみたいだ。

「なんか嬉しそうな顔してあっちの世界に行っちゃってましたよ?」

 かなめちゃんが、興味深そうに聞いてきた。

「あ!さては、昔ここに誘った女の子の事を思い出していたんでしょ!かなちゃん!やっぱり私達、襲われる〜〜!!」

 はあ。

 本当この子達は、鋭い!

 ふとカウンターを見ると美人マスターのエリスさんと美人ウエトレスのエルさんが、くすくすと忍び笑いをしていた。

(そういえば昔、この2人に声を掛けた事もあったっけか・・・。って、わ〜〜!口止めすんの忘れてた〜〜!!)

 しかし既に時遅し。

「エリスさん、エルさん、なにか知ってんですか〜〜!」

 目敏くエリスさんとエルさんの表情を見て止める間も無くあっという間にカウンターに駆け寄る恭子ちゃん。

「な、うわわわわ!」

 遅ればせながらも慌てて止めに入ろうと立ち上がるとそこには、ハリセンを持って仁王立しているかなめちゃん。

「駄目ですよ。クルツさん。この際スッキリハッキリとさせましょ」

 息が合いすぎているって。

 おふたりさん。

 しかし、ううむ。

 ウィスパードの操るハリセンは、強力だからな。

 チッ!

 迂闊に動けん。

 焦る俺。

 そんな俺を見てエリスさんとエルさんもにやにやしてるし。

「私達をナンパした事もあるんですよ。クルツ君」

 エルさんが、くすりとはにかみながら楽しそうに喋っている。

「その癖クルツ君ってカッコいいけど女の子に奥手でね」

 エリスさんが、追い打ちをかける。

「それで、それで!」

 興味深々に聞いてる恭子ちゃん。

「そんな時、未来(みら)ちゃん連れてきたんですよね。エリスさん」

「そうそう。二人共、元々仲は良かったんだけどいきなりの進展には、驚いたわよね」

「ひえ〜〜。エリスさん、エルさん。タンマ!プリ〜〜〜ズ!!」

 絶叫する俺にお構いなく女3人でまあ盛り上がる、盛り上がる。

 うみゅ〜〜。

 こうなるんだったらこの町に来た時に二人に口止めをしとくんだった〜〜!!

 ふふふと悪人みたい含み笑いをしながら俺の足止めをするかなめちゃん。

 エリスさんとエルさんと恭子ちゃんの3人で盛り上がっているし。

 ああ・・・

 俺の過去の秘密が全部バレバレやね。

 憂鬱に思いつつも何故か楽しい俺であった。



 某高校の学園祭の取材も終り、ちょっと休憩という事で行き付けの喫茶店で楽しい一時を過ごした俺と如月未来[きさらぎ みら]

 まあ、エリスさんとエルさんに生暖かい目で見守られていてちょっと恥ずかしかったけどね。

 その後、母校の中学校に戻り部室で取材した事をまとめていた。

 こういうものは、直ぐに整理しておかないと訳が分からなくなるのでぱっぱとまとめてしまわなければならないのだ。

 時間は18:00を回りやっと作業が終了した。

 そこでふと俺は思った。

 考えてみれば互いに好きあっている男女が2人きりで密室にいる訳で、作業が終わってからそれに気づいたりしている。

 ずずず〜とお茶を飲みながらそんなことをぼんやり考えている俺。

 よし!

 きっぱりとケジメは付けているな。

 仕事は仕事。

 恋愛は恋愛でちゃんと分けている。

 仕事は一区切り付いた訳だからここからは、私生活モードに突入!

 やっぱり俺も男な訳だから是非とも未来と甘い情事ってものをやりたくなる訳で。

 でも、いざとなると一歩踏み出す勇気がなかったりする俺。

 はあ、自己嫌悪。

「クルツ君。今、私を事どうやって押し倒そうかと考えていたでしょう?」

 いきなり未来に言われてドキッとする俺。

「ななな、なんのことかな〜〜」

 はあ。

 自分で動揺しているのが判る。

「クルツ君。そんなに動揺してる所を見ると図星ね」

 ビシっと指さしていう未来は、どこか嬉しげな表情で笑っていた。

「いや、まあ。俺も男だからね〜。好きな女の子といたら変な気も起すわな」

 もうやぶれかぶれにいう俺に対して未来はそっと近づいてきてキスをした。

「○×△□☆!!!」

 突然の事にパニクッている俺に未来は、恥ずかしそうに言った。

「私も年頃の女の子だもの。興味ない訳じゃないけどね。クルツ君。もうちょっと気を利かせてよね。もっとロマンチックにね」

「はい。分かりました」

 そう言って今度は、俺から未来にキスをするのであった。



 おい!

 これ読んでる奴!

 何を期待してる!

 まあ、あんな事を言われりゃ押し倒せないわな。

 てな訳で、今2人して帰宅の途中だったりする。

 何時もと同じ帰り道。

 今日も漆黒のブルーの空が綺麗だった。

 何時もと同じ会話を楽しみながら歩いていると向こうから2人組の男がにやにやしながら近づいてくる。

 何か嫌な感じがする。

 こういう輩とは、関わりあわない方がいい。

 注意して彼らとすれ違おうとした瞬間、一人の男がいきなり俺に殴りかかってきた。

(いきなりかよ!)

 そう心の中で悪態を付きながらとっさに避ける俺。

 男は何も言わず流れた動作でケリを入れてきた。

 今度は、避け切れなかった。

 みぞうちに強烈なケリがヒットする。

 ちらりと未来の方を見ると、もう1人の男に腕を捕まれ抵抗している。

 あ、やば。

 マジに綺麗に入ったな。

 だんだんと薄れゆく意識の中、未来の叫び声が聞こえる。

「クルツ君!クルツ君!クルツく〜〜ん!!」

「み、未来。に、逃げろ・・・」

 どうなるのかなと思いつつ俺の意識が途切れていった。



 どれ位の間、意識を失っていたであろうか?

 空が暗くなっている。

 気が付くと公園の茂みの中に倒れ込んでいた。

 まだ意識が朦朧としている。

 そして、意識が徐々に回復すると、まず未来の事を思い出した。

「まさか、あいつら。未来の事を犯すつもりじゃ」

 その事を想像して思わず赤面する俺。

 いや、普通ここは、殺されているんじゃないか、暴力を振るわれているんじゃないかとか考えるよな・・・

 いやいや。

 やっぱりうら若き女性が男二人に連れ去られたんだから・・・



 何処か判らない薄暗い部屋。

 ニヤニヤしている男二人。

 ビクビクしている未来。

「嫌。来ないで・・・」

 でも、それは叶わぬ願いで・・・

「うるせい!黙っていろ!!」

 暴力を振るわれ傷つけられる。

 か弱い未来に抵抗出来るはずも無い。

 服を強引に破かれる。

 乙女の柔肌がさらけ出される。

 無理やり愛撫をされる。

 どれ位、時間が経ったであろうか?

 怖いのに・・・

 嫌なのに・・・

 体は、女としての反応を示してしまう。

「ふふふ。こんなに感じている癖に・・・」

「嫌、嫌。違うの・・・」

 そして抵抗も空しく未来は、猛り狂った男達の欲望に無理やり純潔を犯されていく・・・



 ヤバイ。

 どう考えてもそっちの方の可能性が高い。

「落ち着け。落ち着け俺。とにかくどんな目に遭っても未来は、未来。とにかく最悪な事態にはなっていないでくれよ」

 犯された後に殺されて遺体を路上に放置されましたなんてシャレにもならん。

 冗談抜きにして・・・

 ともかく焦っても仕方が無いと思い込む!!

「ふう」

 意識を無理やり切り替える。

 ます腕時計を見る。

 00:00

 襲われたのが19:00頃。

 おそらく睡眠薬か何か射たれたのであろう。

 次に俺は、内ポケットに忍ばせていた超小型のテープレコーダーを取り出した。

 襲撃を受けた際、とっさに懐に入れていたこの機械で外部録音をしておいたのだ。

 外部録音だから多少のノイズは、あるが概ね聞き取れた。



未来:「クルツ君!」

男1:「ああ、うるせいアマだ。」

 ぷしゅ〜〜〜!

男2:「眠ったか?」

男1:「ああ、しかしこんなに早くウィスパードの能力を持つ可能性のある奴に出会うとわな」

男2:「あの高校にミスリルの情報機関があると聞いた時は、まさかと思ったがあながちガセネタでは、なさそうだな。わざわざ、近くにアパート借りて見張っていた甲斐があったってもんだ」

男1:「ところでこのガキどうする?」

男2:「とことん利用してやるさ。このアマを連れて行ってもしウィスパードで無かったら殺さねばなるまい。そこでだ。警察にたれこんでおくのさ」

男1:「ふ、それで警察にはこのガキが、恋人と口論した上、逆上して殺した事にするんだな」

男2:「更にアマの家に教習して家族を脅して娘が帰ってこないと警察に電話させた後に殺す。真っ先に疑われるぜ。このガキがよ」

男1:「例え真相が解ったとしても、明日の今頃は、俺達は日本を脱出してんだ」

男2:「とにかく簡単な検査でも1日かかる。ちょうど俺達の脱出時間と同じ位だ。急いでアパートに戻るぞ!」

男1:「チッ。それがなけりゃあ、お楽しみが出来たのによ。見ろよ。結構上玉だぜ。このアマ。無理やりぶち込んでヒイヒイ可愛く鳴かせてやりたいぜ」

男2:「おまえも好きだね。やめとけやめとけ。犯った後にもし殺してだ。ひょんな事で遺体が見付かってだ。膣に残った精子からDNA鑑定されて犯人が割り出されましたってなったらお笑いにもならないぜ」

男1:「ははは。確かにな」



 聞き終わった俺は、呆然としていた。

 ミスリル?

 ウィスパード?

 何だ一体?

 いや、それよりも、これじゃ警察にも迂闊に行けない。

 幸いというか。

 未来の父親は、今取材の為、俺の父親と共に外国へ取材に行っている。

 母親は幼い頃に亡くしており親戚も遠い所に住んでいてあまり交流が無いと未来が言っていた。

 少なくともあいつ等が考えていたように未来の家族が殺される可能性は無い訳だ。

 だが、叫び声が聞こえた位の通報と俺らの事は、匿名で警察に連絡している可能性が高い。

 今、警察に駆け込めば保護という名の取り調べを受ける。

 幸いこの録音テープがあるから最終的には無罪放免にはなるであろうが、そんな事をやっていたらあいつらに最悪未来を殺されてしまう。

 逆にもし未来が、あいつらの言うウィスパードだったとしたら一生会えなくなる。

 1人で・・・

 そう1人で未来を助け出さねばならない。

 未来は、ウィスパードとやらの検査をする為、丸1日は無事であろう。

 残り19時間で丸1日がたってしまう。

 救出時間を考えて18:00までには助けねばならない。

 しかも、警察の手を借りないで自分の力とコネを使って・・・

 だが、やらねばならないのだ。

「俺を生かして利用しようとしたこと後悔させてやる」

 そう、静かに俺は、宣言していた。



[感謝]



 今回、ワールドフューチャーのDRT様の小説のキャラクターである「エリスさん」「エルさん」にご登場願いました。

 快く使用を許可して下さりましたDRT様に感謝致します。




(ここからは、時間との勝負になる)

 俺は、そう思った。

 まず情報を入手しなければならない。

 それも早急にだ。

 幸い今回の取材の為に多少多めに軍資金などを持ってきている。

 俺は電話ボックスに入った。

 手帳を広げ電話をかける。

「もしもし、俺だが」

『おお、クルツ先輩!こんな夜遅くにどうしたんです?』

 俺と同じ新聞局で趣味で情報を集めていたりする2年後輩の奴だ。

「すまんな。大至急欲しい情報がある」

『何です?未来先輩のスリーサイズとかですか?』

「あ、それ知ってるから」

『ああ、クルツ先輩。俺がいうのもなんですが、先輩に殺されないで下さいね?』

「ははは。まあ、その辺はばれないように上手くやってるさ。でな、行っておきたい事がある。もしかしたら俺、犯罪者にされてしまうかもしれん」

『へえ過激ですね?何やらかしたんです?女湯でも覗いたんですか?』

 まあ、何時もの俺の行動からすればそう見られても可笑しくは、無いんだけどな。

 けらけら笑う相手に対して努めて冷静な返事をした。

「殺人!しかも未来(みら)をだ」

『は?』

 俺は、事細かに事情を説明した。

『はあ。本当に厄介事に巻き込まれましたね。先輩。でも、まあ、未来先輩には色々お世話になってるしね。判りました。すぐ調べます』

「恩に着るよ」

 俺はその後、信頼のおける情報屋に矢継ぎ早に連絡を取った。

 皆一様に驚いていたが、協力してくれた。

 色々な取材を通じて仕入れたネタを結構こちらから提供したりしており信頼関係が築かれている為だ。

 今ほど記者を目指していて良かったと思った事はない。

 もっともそのせいで未来はあの男達に目を付けらられこんな事態になったのだが。

 世の中どう転ぶか本当に判らないという典型的な例であろうと思う。

 様々な情報屋に連絡が終わった後、1人の少年に連絡を取った。

 ハッカーとしての腕は一流!

 危険回避能力に長け緊急時にも冷静に対処する頭脳。

 俺の2つ下の後輩で生徒会会計をしているが、その優れた才能でみるみる裏会計を増やした。

 カリスマもあり将来一角の人物になると思う。

 俺とも妙に気が合い新聞局の部費を増やして貰ったりしている。

「よ!」

『どうしたんです。先輩?』

 簡潔に用件を言う俺。

 それだけであいつは、十分に解る。

 2、3打ち合わせをして電話を切った。

 さて物騒な事だが仕方が無い。

 武器を調達せねばならない。

 それもナイフとかそんなもんじゃ駄目だ。

 素人でもある程度楽に相手にダメージを与えれる武器。

 思い付くのは、あのおじさんしかいなかった。

 しかし、馬鹿正直に事情を説明して、はいどうぞと銃を貸してくれる訳がない。

「おじさんには、悪いけど盗ませてもらうしかないな〜〜」

 以前、取材の時に世話になった日本の武器の収拾保存会のおじさんの家へと足を向ける俺であった。



 町から数キロ離れた裏山の中。

 必死に盗んだ自転車をこいで、やっと辿り着いた保存館

 結構ここを訪れる人も多いが、俺の向かったのは、更にその奥にある武器保管庫である。

 何回か火縄銃の射撃訓練をした俺は、ちゃっかり合鍵なんか作って持っていたりした。

 いや、だって、面倒くさいんだもの。

 わざわざ保存館まで鍵取りに行くの。

 悪いっていうのは、判っているんだけどね。

 しかし、まさかこんな形で使う事になろうとは思わなかった。

 鍵を開けるとそこは湿った空気の漂う空間。

 でも銃は、桐の箱に収められており湿気を防いでいた。

 この銃を使って未来を助けねばならなくなるかもしれない。

 そう思うとなんだか気が重くなってしまう。

 ふとおじさんの言葉を思い出していた。

「所詮、武器というものは殺しの道具なのだよ。身を守る為。狩りをする為。どんな事を言ったって人を殺すという事には、違いはありゃせんのだよ」

 その時俺は、そんな事は無いんじゃないのと軽薄に言ったものだ。

「確かに身を守る為の武器の使用は、必要最低限の権利かもしれん。しかしな、それが他の人を守る場合はどうかな?」

「勿論いいに決まっているじゃないですか!」

「ほほう。じゃあ、国が国民を守る為に他国を攻撃する事は、どうかな?おっと、反論は無しじゃよ。つまりはそういう事なのじゃよ」

 この会話は、今でも忘れられない。

「だが、時として武器を使用せねばならない時もある。まあ、武器ではなく暴力と置き換えてもいいだろう。その時は、今言った事を思い出してその上で力を使うのじゃ。それだけでも全然意味が違ってくるからな」

 今、果たして武器を使うべきなのであろうか?

 自問自答してみる。

 相手は、どこかの悪の組織らしい。

 用意周到に俺を犯人にしようとしている。

 警察には、行けない状況。

 19:00までになんとしても救出しなければならない。

 こう考えると、やはり不測の事態を考えて銃を持って行った方がいい。

「おじさん。ごめん!!」

  そう言って銃を取ろうとした時であった。

「ごめんと言うなら始めっから取るな」

 妙に静かな声で話しかけて来た人物。

 おじさんであった。

 俺は、その場で氷ついてしまった。

「ここの鍵は、かかっていた筈なのに・・・」

 ここの鍵は通常の扉に付いている鍵の他に錠前も付いている。

 その錠前の鍵が掛かっていた筈なのに・・・

 呆然としている俺。

 厳しい顔付きのおじさん。

 どう弁解しようかと悩んでいる俺。

 足を引き摺りながら近づいてくるおじさん。

 何でも昔、交通事故にあったとかで歩くのに苦労していると話してくれたっけか。

「何かあったのか?お前がこんなこ事をするなんて考えられんからな」

 俺は、正直に話すべきか迷った。

 幾らおじさんとはいえ一歩間違えれば警察沙汰だ。

 と、いうか、普通は問答無用で突き出される。

 かといって逃げる訳にもいかない。

 呆然としている俺に向かっておじさんは言った。

「どっちにしろこんな事をしでかしたんじゃ。どうせ警察に突き出すんだから、その前に理由でも言っておきなさい。もしかしたらわしの気が変わるかもしれんぞ」

 実にのほほんと話すおじさん。

 もうこうなったら破れかぶれで言うしかないだろう。

 俺は決意しておじさんに今までの事を話した。

 おじさんはただ黙って聞いていた。

 どれ位経ったであろうか?

 全てを話し終えた。

 おじさんは、黙って歩きだした。

「おじさん?」

 俺は、逆に意表をつかれてしまった。

 だって、てっきり怒鳴るか、せせら笑うかすると思ったからだ。

「クルツ。ちょっと来い」

 そう言ってまた黙々と歩き出した。

 慌てて後を追う。

 少し奥に行くと、何も無い和室がある。

 そこの畳の一部をおじさんは、叩いた。

 すると、畳が跳ね上がりそこには地下に通じる階段があったのだ。

 何処の忍者屋敷だと、びっくりしている俺に付いてくるように言っておじさんは、その階段を下りていった。

 一体この下に何があるのか?

 今置かれている状況に不安に怯えながら、それでいて記者としての興味心を抱きながら俺は地下へと続く階段を降りていった。




 おじさんの後を付いて地下へと続く階段を降りて行くと分厚い鋼鉄の扉に突き当たった。

 懐から重そうな鍵を差し込み回すおじさん。

 ガチャリと鈍い音がする。

 足を引き摺りながらおじさんは扉を開けていく。

 俺も一緒に手伝ったが、話かける雰囲気ではなかった。

 神官か何かの儀式なような気がしたからだ。

 中は真っ暗だが、ひんやりとした空気が流れてくる。

「ここは、昔、食物の保存庫として使っていた洞窟じゃよ」

 おじさんが教えてくれた。

 壁に掛けてあったランプに火を付け扉を閉め直し鍵を掛け直し更に奥に進む。

 入り組んだ洞窟は、知らない者が迷い込んだら絶対に生きて帰ってこれないであろう。

 そんな気にさせるような雰囲気があった。

 暫く進むとまた扉があった。

 同じ鍵を差し込んだ。

 そして、扉を数回叩く。

 まるで暗唱番号を打つように。

 ごうん。

 ぶ〜〜〜〜ん。

 自動的に開く扉。

 中に入りまた扉を閉める。

 いきなり照明がともった。

 ランプの光に慣れていた目が眩む。

 しばらくして目が慣れてきて辺りが見えるようになった。

 そこは、長い長いコンクリートで覆われた部屋。

 奥行きがざっと200mはあろうか?

 奥には人型の標的がある。

 そこは射撃訓練場であった。

 何故こんな所に射撃場があるのであろうか?

 側面の壁にあるもう一つの扉を開けそこに入るおじさん。

 慌てて後を追う。

 その部屋に入って見たものは、各種銃火器類。

 拳銃からマシンガンまで、挙げ句にはバズーカーまであった。

 開いた口の塞がらない俺におじさんが話しかけてきた。

「元々わしは傭兵じゃったんだよ。各地を転々とし時には敵を狂ったように殺戮し時には戦友を失った」

 俺は黙って聞いていた。

「ある時、ドジを踏んでしまってな。なに地雷に引っかかったのさ。幸い足を負傷するに留まったが、その時わしを助けてくれた現地の女性がいてな。恋に落ちたよ。お約束通りな。じゃが、その女性の家に敵がなだれこんできて、目の前で彼女が殺されてしまった。なんとか、敵は倒したが、助けることができなかった」

 悲壮な顔で過去を語るおじさんに、俺はただ黙って聞いている事しかできなかった。

「結局、わしがいたために彼女が殺されたのじゃ!!わしのせいで・・・。その時の傷が悪化して、足が不自由になったのさ。足がうずくたびに思い出すよ。あの時のことを・・・。日本に戻ってきて、やることは、結局武器のことについての仕事、つまり、武器保管の仕事さ。まあ、古代の武器にも興味はあったしな。ただ、もしまた守らなければならないことの時の為に、こうして射撃訓練場を作り、武器を保管して鍛錬してるんじゃよ」

「そうだったのか。だからおじさんは、前に武器の使用について否定的だったんだね」

「否定的な訳じゃないがな。慎重派ではあるな」

 にやりとしてウインクするおじさん。

「さて、お前さんの今の状況はわかった。一緒にいって助けてやりたいが、この足では移動だけで時間を取り、かえって足手間といになるだけだ。そこでだ。わしのできることをしよう」

 そういっておじさんは、拳銃とライフルを手にとった。

 鈍く黒光するその銃は、頼もしくもあり、また恐怖でもあった。

「火縄銃のお前さんの腕前はたいしたものだ。天性のヒットマンの素質があるよ。ただ、最新のしかも使い慣れてない銃をいきなり使ってもただ、的を外すだけじゃ。ここで練習していくといいじゃろう」

 ありがたいことではあった。

「でもおじさん。時間が無いんだよ」

「わかっておるよ。だから制限時間は30分。14時までじゃ。その間にわしも手を打っておこう。幸い自衛隊とは、コネがあってのう。情報収拾くらいはできる。お前さんの情報網と一緒に活用すればいい。その為の30分じゃ。時間を有意義に使え!!情報を集め、的確にビジョンをくみたてろ!!それが戦場で負けないコツじゃよ」

 射撃場へ戻りおじさんは、予備の弾を机におき、ます拳銃をかまえた。

「有効射程距離は、20mと思えばいいじゃろう。的はあれじゃな」

パン!!

 見事に命中していた。

「弾は9mm弾。下手に威力のあるものだと連射できんし、射軸も撃つたびにずれるからの。これでいいじゃろう」

 弾の交換の仕方や撃ち方を教えてくれる。

「ライフルは、射程1000m、しかし、お前さんは全然慣れていないから、せいぜい200mかな」

ダン!!

「的はあそこ。後は銃の癖を掴むことじゃな」

 そういって、おじさんはライフルを俺に渡した。

 すっしりと重みを感じる。

 これで、人を殺す為に射撃訓練を今からするのだ。

 例え未来(みら)を助け出すことの為とはいえ、それは気を重くするものであった。

「わしは、さっきの部屋で情報を集める。30分たったらくるから、とにかく練習しておけ!」

 そういって、おじさんはさっきの部屋へと戻っていった。

 一人になり、俺はとりあえす、拳銃から試射してみた。

パン、パン、パン!!

 癖をよみながら黙々と撃ち、黙々と弾の交換をしまた撃つ。

 どうやら、拳銃に関してはフィーリングがあっているようだ。

 次にライフルをかまえる。

ダン!かしゃ、ダン!かしゃ。

 どうにも癖が掴めない。

 何度も何度も撃つ。

ダン!かしゃ、ダン!かしゃ。

 すこしずつコツが掴めてきた。

 そうする内に時間がきたのであった。

「時間だぞ!!クルツ!!」

 そういわれるまで、俺は時間の事を忘れて黙々と銃を撃っていたのだ。

「情報はこのフロッピーに入っている。これから、いくんじゃろ。パソコンで情報集めている奴の所に。もっていけ」

 そういってフロッピーをほうり投げた。

「すいません。おじさん」

 頭を下げる俺におじさんはいった。

「お前はこれから人殺しになる。しかしな、ためらったら、お前さんだけじゃなく、彼女も死ぬ。そして、何故自分達のことを知ったのか調べ、情報を提供した者も殺すだろう。いいか!!容赦はするな。確実に殺せ!銃を撃った瞬間、命はお前一人の物では無くなるんじゃからな」

 一言一言が身にしみる。

 これが人を守る戦いであるのか。

 前に不用意に人を守る為に武器を使用するのはいいんじゃないかと言っていた自分がいかに愚か者で、なにも知らない素人の戯言(ざれごと)であったか、今ならよくわかる。

「銃は使わないに越したことはない。しかし、使うとなれば、今いったことを十分に心にきざむんじゃぞ!!」

 真剣な眼差しでおじさんはいった。

「はい」

 そういって、俺は頭を下げた。

 そして、お礼をいってここを後にした。

 後は、情報収拾の結果をまとめに、あいつの家にいかなければならない。

 俺は背中に下げた銃の入った筒の重圧に潰れそうな気を持ちながら、自転車を走らせた。




 14:30、俺は新聞局の後輩、岡部とともに、生徒会会計、林水の家をおとずれた。

 あまり知られていないことだが、岡部の生の情報収拾、林水のハッカーとしての腕前、俺の総轄的なカンで、数々の事件や謎、あまつには生徒会の会計を増やすというあら技までやってのけてしまったこともある。

 もっともあまりやりすぎないようにはしてはいるが。

「先輩、他の情報屋からの情報を聞いてきました。一応礼として少ないですが、一人一万円払っておきました。まあ、いいとは皆いってましたがね。」

 林水の部屋で鞄をおきながら岡部は、そういった。

「そうか。すまないね〜〜。で、いくらつかったんだい?」

「ざっと、15万円!!」

「おまえ、結構持ってるね。お金。」

「情報屋の基本ですよ。基本。」

 にかっと笑えむ岡部はやはり生粋の情報屋の素質があるようだ。

「んっじゃ、はい、15万円。」

 そういって、俺は岡部に金を渡した。

 ちょうそその時、おぼんにジュースをのっけて、林水が部屋に入ってきた。

「お待たせしました。先輩。まずは一杯飲んでください。」

 そういってジュースをコップについでくれる。

「しっかし先輩もすっげえことに巻き込まれましたね。殺人者ですか?」

「そうですね。でもなかなかできる体験じゃないですね。先輩。」

 2人してわざとため息をつきながら俺に言う2人。

 もちろん、2人とも、事態は刻一刻と迫っていることは、承知している。

 だが、焦っている俺を気遣い、わざと軽口をたたいてくれているのだ。

 ありがたいと同時に、自分では冷静なつもりでいて実は焦っていたんだな〜〜と実感した。

「すまんな、気をつかせてしまって。」

 俺は、2人に頭を下げた。

 びっくりした顔の2人。

 あわてて岡部がいった。

「先輩がそんなにしおらしいと不気味だな〜〜。」

 林水も、フッっといって、

「ああ、わかってしまいましたか。慰めているのが。」

 と、いった。

「ああ、すごく助かるよ。お前たちのお蔭で、少し気が楽になったよ。そうだな、焦っても仕方ないな。」

 そう俺はいった。

 自分に言い聞かせるように、噛みしめながら。

「しかしですね、先輩。焦らなくてはならない状況ではあります。早速はじめましょう。」

 そういって、林水は、机の上にあるパソコンの椅子に座った。

「そうっすね。18時がタイムリミットでしたっけ。となると遅くても17時までには、解析しなきゃならんわけですね。」

 後2時間半。

 それは途方もない作業である。

 情報というものは、実にたくさんあり、抽象的なものが多い。

 中にはどうでもいいことも多く含んでいる。

 情報を扱うことに関しては、集めること自体は、さほど苦ではないのである。

 しかし、その膨大な中から一つずつ、真実をいい当てるパズルのピースを見つけ、それを作り上げていく。

 実に根気がいる仕事だ。

 ただ、岡部を始め、俺の知っている情報屋は、その点吟味された情報を集めてくれる。

 それ故に、隠されたパーツを見つける苦労が少しは減るのだ。

 その情報を元に様々な角度から検証するのが、林水の仕事だ。

 いろいろなパーツの情報をパソコンを使って調べ、時には別の情報を引き出す。

 そこからまた、真実のパーツを探していく。

 それこそ根気がいる仕事であり、時間を食うのである。v  本来ならば、1日や2日で終わる作業では無い。

 しかしやらねばならないのだ。

 未来(みら)の命が懸かっているのだから。

 そして、そのパーツを見つける[感]こそが、俺の仕事であった。

「まず、インターネット等でミスリルとウィスパードについて検索しました。残念ながら有力な情報はありませんでした。」

 まあ、そんなもんだと思っていた。

「そこで、なんらかの軍事組織や政府、それから企業などのコンピューターにアクセスしてみました。その結果、ミスリルについてはわかりました。」

 瞳にパソコンの光を反射させながら林水はいった。

 いつも思うんだが、あれほどパソコンやっていて、勉強のできる奴が、視力2、0とは、恐れ入る。

「自衛隊の情報及び軍事マニアのHPにありました。ミスリルとは、どこの軍事組織にも属さない傭兵集団です。」

 俺はすかさずいった。

「検索でそのHP見つかんかったのか?」

「どこの検索エンジンにも登録されていなかったんですよ。」

「なるほどね。可能性としては、そこが未来をさらったのかな?」

「いえ、可能性は低いと思います。この組織は、世界の紛争等を解決する為に作られた組織で、各地で活躍しています。国連や各国とも接触があるらしく、一般的には知られていませんが、その筋では有名な組織だそうです。」

「なるほどな。つまりは、ミスリルは直接的には今回の事件には関係ないことになるな。」

 そう俺はいった。

「その件は、岡部にすぐ連絡して、情報を集めてもらいました。」

「でですね、先輩。ミスリルって組織は普通の軍事組織とは違うんですよ。」

 情報の紙を鞄から取り出しながら岡部がいった。

「なにが違うんだ。」

「ます、武装についてです。強襲兵器アームスレイブ略してASをご存じですか〜?」

「ああ、たしか人型兵器だったよな?」

「そうっす。で、そのASなんですがね、この組織は現時点よりも優れたものを装備しているという噂が軍事マニアに広まっているんですよ。」

「ほう、で、その噂の出所はわかったかい?」

 すると林水が答えた。

「自衛隊の情報を元に軍事関係のHPを探した結果見つけたHPに、この噂が詳細にかかれてました。なんでも10年は先に行く兵器があるという噂があると書かれてました。」

「でですね〜、こんな噂もあるんです。相当優れた技術者でも、10年も進んだ技術を開発することは、容易ではない。実は宇宙からの電波が届きそれを受信した選ばれた人間が、その開発に携わっていると。」

「なんか一昔前のUFO番組みたいですね。」

 林水がぼそっといった。

「それからですね〜、この組織、どこの国にも属さないんですよ。10年も進んだ技術を持つ組織がどこの国にも属さず、国連とも直接的には繋がっていないんです。」

 俺はふと思った疑問を口にした。

「なら、資金はどこから出ているんだ?そんだけの組織なら相当金をくうぞ!!」

「そうですね。確かにそうです。まさか私たちのやったみたいに、株とかやっていたりはしないでしょうし。」

「それについてですね〜、自分なりに考えたんですが、紛争解決のお礼のお金、進んだ技術力の提供、なんか考えられますね〜。」

 次々と疑問を投げかけてはそれに答えていく俺たち。

 一歩一歩、階段を登るように考察していく。

 それは、まだ始まったばかりであった。




 いろいろと情報を検討していく俺たち。

 刻一刻と時間が過ぎていく。

「林水、これ、資料館のおじさんがくれた、情報だ!!なに入っているかわかないけどね。ちょっと見といてくれや。」

 そういって、俺はフローピーを放り投げた。

 ぱしっとつかむ林水。

「了解!!」

 そういって、キーボードをたたき出す林水。

 俺は、岡部と次の疑問。相手の潜伏先を突き止めることにした。

「で、なにか情報はあったかい?」

 岡部は、メモ用紙を片手に説明しだした。

「さっき聞かせてもらったテープによると、どうやら相手は、つい最近、高校をマークしているみたいな事をいってましたね。」

「ああ、しかも高校の近くと思うんだがね。」

「ええ、ただし、そんなに近くには、アジトは構えないと思います。」

「その理由は?」

「だって、本当にその高校がミスリル関連の施設だったら、情報部員もいるはずです。と、なると、あっちゅうまにみつかっちゃいますよ!先輩! 」

 岡部は自信をもって答えた。

 確かにその通りである。

「と、なるとだ、双眼鏡等で監視出来るとこってことになるかな?」

 まず1つ的を狭める俺。

「更にいうなら高い部屋でしょうね。4〜5階位の部屋かな?」

 更に的を絞る岡部。

「あと、高校まで視界が開けているってのは、あったりまえの条件だな。」

 そういって地図を広げる俺。

「と、なるとだ、候補はこの3つのマンションか?」

 俺は、地図に丸を書き込んだ。

「その3つのマンションで何か情報はあるかい。岡部」

 にやりと笑って岡部は答えた。

「ええ、ありますよ。多分このマンションですよ。今から1ヶ月前にこのマンションの5階に契約してますね。なんでも1年分の家賃前払いだそうで、オーナーがビックリしたって噂が立っていますね。」

「他はないのかな〜。」

「いろいろ調べたんですが、この情報しかありませんでした。」

「う〜〜ん」

 なにかおかしい気がする。

「なあ、岡部。相手はプロだぜ。俺らみたいな素人に毛のはえたような奴らにもわかるようなへますると思う?な〜〜んか怪しいんだよな〜〜。 」

「えっ?」

 意表をつかれたって顔できょとんとした岡部。

 俺はなんとなくその情報は怪しいって気がしたのだ。

「どうゆうことです?先輩?」

「だってお前がいくら情報を集めてもそのマンションのことしか上がってこなかったんだろ?普通はもっといろいろな情報が集まってくるよ。そうだろ?岡部。」

 はっとする岡部。

 やられたって顔をしている。

「いわれてみれば、そうですね。先輩。ちくしょう!!なんで気がつかなっかったんだろう。」

 悔しがる岡部に対して俺は慰めの言葉をかけた。

「俺の考え過ぎかもしれんし、それは調べればわかることさ。逆に岡部の情報が合ってるかもしれんしな。気にすんな。岡部。」

「でもやっぱしくやしいですよ〜〜。先輩!」

 そういって少し落ち込む岡部であった。

「さあ、反省ばかりしている暇はないぞ。岡部。」

「そうっすね。先輩。」

 岡部は、気を落ち着かせるように深呼吸をして、そして少し考えてから、答えた。

「なんとなくですけどね。先輩。なんで相手は、先輩のこと消さなかったんでしょうか?だって、プロなら、なんだかの対処方を持ってるはずですよね。」

 そう、それこそ俺がもっとも引っかかっていた点だ。

「そう、そうなんだよな〜〜。岡部よ。でだ、そのくせ、みょうに強かったんだよね。思うに、組織のなかの下請けって感じがするんだよな。」

 案外、的を得ているかもしれない。

「案外この町に元から住んでいたって可能性がありますね。いやですね、さっきのマンションの契約なんですが、女性がしたっていうんですよ。てっきりカモフラージュの為にやったことだとばかり思っていて、先輩に報告するの忘れてました。情報屋失格ですね。俺。」

 また、落ち込んだ岡部。

「気にすんな。岡部。そうなると、かえって逆の発想で考えた方がいいかもな。」

「そうですね。まず、元からこの町に住んでいると仮定して、男2人が住んでいるってことっすね。」

「独身男性2人で住んでいるっていうのは、ある意味うわさの種になると思うんですが?そうなるとまた情報が集めやすいですけど?」

 また失敗するかもしれないという思いがあるのであろうか?岡部は自信なさげにいった。

「いや、そうでもないんじゃないかな?だってだよ、さっきのマンションみたいなやり方は、非常に目立つけど、友達が泊りにきてっるってのはよくあることで、それほど気にはならんからな。」

「そうっすね。じゃあ、さらに、独身男性の住んでいる安アパートって仮定しますか?」

「さらに学校のすぐ近く!!」

「でも、学校が視界を遮ることなく見れるっていうのは条件にいれた方がいいですね。」

 ふたたび地図をみる俺。

 あのあたりの地形を思い浮かべながら、該当しそうなアパートに丸をつけていく。

 5つあった。

 果たして俺の感は当たっているのであろうか?

 その間に岡部は、電話をかけていた。

「そうです。はい。お願いします。」

 どうやら、他の情報屋に情報の依頼をしたようだ。

「先輩とりあえず、情報収拾の依頼をしました。すぐに返事がくると思います。」

 俺は林水に、しぼりこんだアパートと、マンションの住民表を探し出してもらおうと思い、声をかけようとした。

 そこで見たものは、顔面を蒼白にさせた林水であった。

「せ、先輩。これはとんでもないことですよ。」

 林水は、震えた声でそうぼそりといった。

 普段、冷静な林水のその姿に、俺は、不吉なものを感じずには、いられなかった。




 俺と岡部は、驚いて林水の方を見た。

 冷静沈着な男が取り乱しているのだ。

 普段の俺たちなら、からかっていたであろう。

 しかし、今はただただ、不吉なだけである。

 だって、普段と違う態度をするということは、それだけで平常心でいられないことを指す。

「どうしたんだ?林水。」

 俺は努めて平常に答えた。

 少しでも不安を和らげる為に。

 そうしないと、自分自身もパニックに陥りそうだから。

 岡部も不安そうな顔をしている。

「と、とにかく、これを見てください。」

 心なし震えた声で林水が言った。

 俺と岡部は、顔を見合わせた。

 見たくない。

 それが、俺の素直な心情だ。

 絶対にろくなことが書いてない。

 そう思う。

 しかし、見なければならないだろう。

 俺は、岡部にコクッとうなずいて、パソコンの方に歩いていった。

 岡部もついてくる。

 たかだか数メートルなのに、すごく長く感じるのは気のせいであろうか?

 そんなことを考えながら、やっとパソコンの前にたどり着いた。

「早く見てください!先輩!!」

 林水がせきたてる。

 自分だけ秘密を持っていたくない。

 嫌な秘密を何人かと共有したい。

 そんな感じが、林水の態度になっているような気がするのは、気のせいであろうか?

 俺と岡部はパソコンの画面を見た。

 そこには、驚くべき情報があったのである。

[ミスリルが、どこの国で出来たものか?等は我が組織において、必死の情報収集においても未だにわかっていない。

 設立時期は、今からおよそ5年前。

 当時の最新軍事力の1年は、先に行っていると思われる兵器を所有していた。

 このくらい先にいっていることは、ありえない話ではない。

 しかしその後、だんだんとその差がつき、5年たった現在、5年は先にいってるという情報がある。

 これはただ事ではない。

 そこでこの件に関しての情報を緊急に収集した。]

「林水。これはどこの組織が調べたんだ?情報屋として興味深々だよ。」

 とりあえず、岡部は聞いた。

「CIAです。」

「は?」

 俺と岡部の声が重なった。

「ま、マジ?」

 岡部が驚いていった。

「お、おじさんって何者なんだ?」

 俺は、ただそう言う事しかいえなかった。

「で、これがその結果報告です。」

[様々な情報の中で、一つ面白い物がある。

 実はミスリルは、宇宙人から、選ばれた人がテレパシーで得た情報を使って軍事力の強化をしているというものだ。

 この手の話はよくある事で、現に我が国において、エリア51において、宇宙人を捕獲、保存しているとか、共同研究しているなどの噂が絶えない。

 また、過去、宇宙人に会ったという人々がテレパシーで、地球の滅亡を警告するメッセージを聞いたというものもある。

 一笑にふすことも出来る情報であるがどうも気になる。

 何故か?

 この件については、封印された、Zファイルに謎が隠されている。]

「Zファイル〜〜ゥ?なんか某アメリカドラマの世界だな。」

 苦笑しながら俺は言った。

「まあ、そんな事件もありますからね。この世の中、科学では解明出来ないこともあると思います。」

 林水の持論である。

 そしてその意見は3人とも同じであった。

「そうっすよね。逆にそんなことで、貴重な情報を放棄するほうがおかしいんです。もしかしたら数年、数十年後にその情報が生きてくることもあるんすから。」

 岡部は、情報というものは人類の貴重な財産だと常々いっている。

 彼らしい意見だ。

「封印してるとはいえ、ちゃんと情報を取っておくアメリカってやっぱすごいよね〜え。」

 俺は関心していた。

 そして確信していた。

 この情報は真実であると。

 そして、おじさんのその顔の広さを。

 そしてなにより嬉しかった。

 ついさきほど俺たちが推論していたのと同じきっかけで、情報収拾にのりだしていることにだ。

 プロと同じ考え方をした。

 ただ、それをつっこまなかったのが反省点だとも思った。

 次にやる時には、気をつけなきゃな。

 そう思って、ふと気がついた。

 次はないかもしれないなと。

 だが、俺はそうでも、林水と岡部にとってはいい経験になったであろう。

 これが俺ができる唯一の報酬みたいなものだな。

 そして思った。

 絶対に彼ら2人を相手に悟らせないようにすること。

 自分は死んでも、相手を確実に道連れにして、情報が漏れないようにしようと。

 俺が人を殺すことになる。

 そう覚悟を決めた瞬間であった。

 そう思いながらも続きを目で追っていた。

[ここ数年の子供の誘拐事件が増加している。

 この件につき、世界機構は、各国に緊急の対応を求めている。

 統計をとって見ると面白い事がわかった。

 19XXから+−5年生まれの子供の誘拐が多発している。

 しかもほとんどが行方不明のまま、事件が解決していないのだ。

 そして、ミスリルもその年代の子供をスカウトしているという情報がある。

 我が組織は、ミスリルが何故、その年代の子供に興味を持つのか、疑問に思った。

 まさか、彼らが誘拐をしているのではないかと。

 しかし、いろいろ調べた結果、それは無いことがわかった。

 では、何故ミスリルは、その年代の子供をスカウトしているのか?

 あえて、我々は正面からミスリルを攻めた。

 トップクラスの幹部同士の会見を申し込んだのだ。

 ミスリルは、世界平和を目指している組織であるといっている。

 現に何回も紛争を解決している。

 だから、調査依頼をしたのだ。

 そして、この問題について、当方がミスリルに対して疑問を持っていることも。

 もしも、満足のいく答がえられない場合は、ミスリルを、ゲリラ組織とするむねを伝えて。]

 ゲリラ組織?

 そこで俺は閃く物があった。

 ミスリルが持つ最新鋭の兵器ってもしかしたら、その子供達が持っているのかも。

 もしかしたら、本当に宇宙人からテレパシー受け取ったりして。

 だが、そうなると困るのは、各ゲリラ、テロリスト、軍事国家などだ。

 もしかして、そうゆう組織の犯罪か?

 俺はその考えを2人に話した。

「ええ、ご名答です。先輩。続きを見てください。」

 俺はまた画面を追った。

[いくら、5年先に行く組織でも、我が国を敵に回すのは得策でないと考えた上での揺さぶりだ。]

 岡部はうなずいていた。

「うまいすね。さすがに。アメリカは軍事的に非常に多数の兵力を有しています。さらに、物資や人材も。アメリカを敵に回す=死を覚悟するってことです。第一そんなところに、誰も集まらなくなりますしね。」

 林水もうなずく。

「そうなんです。いくら5年先に進んでいる組織でも、人材が集まらなければその戦闘力を発揮できません。そうゆう意味において、やはり、アメリカは、すごい国ですね。」

「孫子だな。戦いは最後の手段。別に殺しあうことだけが、戦争でないってことだな〜〜。これは俺もみらわなくっちゃな〜。」

 もっともできることは正確に情報を収集して奇襲をかけるしかないんだけどなと思う俺であった。

[さすがにミスリルである。彼らは条件として、ミスリルの存在の承認と協力等を条件に出してきた。

 そして、そういって、資料を渡してきたのである。

 そしてこういった。

 そうくると思っていましたと。

 戦慄が走った。

 情報収集戦で負けたのだから。]

 世界のアメリカが情報収集戦で負けた!?

 これ自体でミスリルの凄さがわかる。

[その資料にはおそるべきことが書かれていた。]

 林水は、ここで手を止めて俺たちを見た。

「驚かないでくださいね。」

 そう、前置きして、林水が手を動かした。

 それは、写真であった。

 そして、それを見た瞬間、俺と岡部は唖然としたのであった。



 パソコンの画面に映し出されたもの。

 それは大量の骨、人の骨であった。

 どこかの研究施設であろうか?

 子供のものから、そう、クルツの年代くらいの骨まで、無数に重ねるように、骨がころがっていたのだ。

 林水がだまって次の写真のデーターを写す。

 半ばくさった死体の山。

「うげ!」

 岡部は思わず呻いた。

 次の写真。

 そこには、水槽にいれられた少年や少女が、虚ろな目をしながら浮かんでいる。

 なにかの線を体のあちこちにつけれれて。

 次の写真。

 けたけた笑うもの、壁に頭を叩きつけてるもの、ぶつぶついっていっるもの、まるで精神病院のような、しかもその患者を一ヶ所に集めているようだ。

「こ、これはいったいなんなんだ?」

 俺は、吐き気を模様しながら林水に聞いた。

「某国の某施設と記入されてます。」

 そう言って、次のデーターを呼び込んだ。

[ミスリル極秘文書

 この写真は、ある組織が、ウィスパードかどうか調べる為に行った実験である。

 次々にウィスパードに該当しそうな少年、少女を誘拐してきては、強烈な薬物等で調べる。

 違った場合は、そのまますぐに殺害された模様。

 ウィスパードに該当した場合、特別な溶液の入った水槽に入れられ、なにゆえか、少年、少女の頭の中にある、ブラックテクノロジー(未知の技術)を無理やり引き出される。

 その時、脳を絞りこまれた感覚で、苦痛であると、奇跡的に正常に戻った者が語った。

 たいていの者は気が狂い、救助されたあとも、精神病院行きとなり、ほとんどの者は、未だに回復していない。

 じっくりと、精神に異常をきたさない方法はあるが、それでも多少の苦痛は感じられ、また、催眠術や、薬物使用、時間や費用がかかる。

 この組織は、そんなことをせず、次々と有望な若者を、精神異常者にしてきたのだ。]

 シーンと部屋はしずまり返った。

 戦慄の事実。

 ウィスパードとは、謎の技術、ブラックテクノロジーの持ち主。

 そして、薬物で無理やり検査する。

 おそらく未来(みら)もそれを今、やられているのだ。

 林水が顔面蒼白になる理由がよっくわかった。

 これは、これは、人間のすることじゃない。

 しかし、現にその現場があるのだ。

 違ったらそのまま殺す。

 林水が口を開いた。

「上はそう、我々の年代なんです。クルツ先輩」

 つとめて冷静に言う林水。

 しかし声は震え、わなわなとしている。

「そ、そうか。だからここ数年、誘拐事件が多発していたんだな。くそ!!人間のやるこっちゃない。」

 岡部は、ドンと壁を叩いて叫んだ。

 俺は、冷静に、そう、冷静に言った。

「そうか。だから、ミスリルは5年も先の技術を獲得していたんだな。」

「ええ、だから今回の事件は非常に厄介なことですよ。」

 林水はいった。

 そうなのだ。

 しかも時間が無いのだ。

 俺たちはまた、それぞれの情報を集め、検討していったのだった。

 決戦の時は、これからもう少し後の話である。





 だいぶ気を失っていたようだ。

「一緒に帰ろうよ。相良君。」

 かなちゃんの声が聞こえる。

 うっすらと目を開けて見ると、ソースケにかなめがよりかかっていた。

「千鳥・・・」

「相良君・・・」

 ぎこちなく見つめあう二人。

 ちょっと羨ましかった。

 俺には出来なかったことだ。

 今、二人は、互いを意識しあい、共に生き残ろうとしている。

 普段なら応援して、そっと見守ってやるんだが、いかせん敵地のど真ん中だからな。

 かわいそうだが仕方ない。

「あー。んー。こほん。」

 ビクっとして離れる二人。

 しっかしこんなチャンス、めったにないぞ。

 ソースケの奴が恋愛に目覚めるチャンス。

 しばらくは、理解できなくて、かなちゃんに苦労させんだろうな。

 そんなことを思う俺であった。



11


 「じゃあ、想像して。あなたが負けたら、あたしは捕まって、裸にひん剥かれて、さんざん身体中をいじり回されて、殺されちゃうのよ。その光景を思い浮かべて・・・・!!」

 かなめちゃんは、宗介に敵、銀色のASを倒すアドバイスをしている。

 ウィスパードとしての持てる知識を総動員して。

 俺は公式上は、ウィスパードの事は、知らない事になっている。  しかし、俺は知っているのだ。

 ウェスパードかどうか調べる薬品を飲まされた場合、精神上に様々な悪影響を及ぼすことを。

 頭の中は、もう一人の自分がいるような感覚。

 場合によっては、精神異状をきたす可能性もある。

 俺は初め止めようとした。

 しかし、彼女の意志、生きてここから帰還する、しかも3人で、という意志は、強烈なものだった。

 ウィスパードと心をかわし合わせた経験のある俺には、その思いがひしひしと感じられていた。

 俺にできることは、完全にあちらの世界にいかぬよう、適度に声をかけて、現実世界に意識を向けさせることだけだった。

 あの時、未来(みら)も、同じように俺を助けてくれた。

 あの時の再現だけは、してはならない。

 あの悲しみを宗介にはさせたくない。

 俺と同じ苦しみは味わって欲しくない。

 そう、あの時みたいことは、絶対に・・・・・。





「これでしかないんだな?岡部よ。」

 俺は地図に丸を付けた部分を指した。

 そこは、高校と目と鼻の先の2階建の安アパートだった。

 岡部は様々なメモやファックスを見ながら頷いた。

「ええ、先輩。様々な情報を総合すると、ここになります。つい2週間前に、ここに住む男性の友人が泊りにきているそうです。むっすっとしていて気味が悪いって噂がありました。それと、このアパートに住む男性は無職ですが、金には困っていないかったそうです。」

 さらに林水が補足する。

「市役所のコンピューターにハッキングしたところ、戸籍とう、不振な点はみられませんでした。でもここしかないって岡部がいいますので、さらに調べると面白いことがわかりました。」

 俺は黙って林水の説明を聞いていた。

「この男は1年半前外国に旅行にいています。その後、1年余りして帰国しましたが、フインキが変わってるなと住民は思ったそうです。そしてですね、この男の立ち寄った国というのが、さっき見せた写真の収容所のある国々です。」

 あからさまに怪しい。

「可能性は元々住んでいた男を殺し、整形してなりすましているって線だな。」

 俺は確信していた。

 感がそう告げるのだ。

 そして今、その確証を得るために2人の情報屋に依頼してそのアパートにいってもらっているのだ。

 一人は新聞勧誘者。

 もう一人は、水道局の人。

 二人ともそれが本業なので、怪しまれずにすむのだ。

ぷるるるる。

 携帯の電話がかかって来た。

 岡部の物だ。

「はい、もしもし。はい、はい、そうですか。うん。わかりました。それで危険なめには。ああ、そうですか。依頼料ですが、いえ、そうはいきませんよ。じゃあ、気持ちってことで振り込んでおきます。ええ、ありがとうございました。」

 電話を切り、岡部は俺に今の内容を話してくれた。

「先輩。やはりあそこは怪しいですね。いつもとちがう雰囲気だったそうです。なにか呻き声が押し入れからしたそうです。あと、匂いですね。女性の香りがしたそうです。それから、両隣や、下の階の住民にそれとなく聞いたところ、昨夜女性の呻き声が聞こえたそうです。ただよがている声ぽかたって。」

 最後はちょっと遠慮した声でいった。

「ほぼ確実ですな。先輩。」

 林水が冷静に分析した。

 たしかにその通りである。

「ああ、そうだな。じゃあ、早速行動に移るとするか。」

 俺は二人に指示を与えた。

「残念ながら、俺達の手だけでは、事態は収拾できない状況にある。よって二人には別の事をやってもらいたい。林水!!」

「はい、先輩!!」

「ミスリルと何としてもアクセスを取れ!今まで集めた情報を提供、支援を要請せよ。」

「わかりました。」

「岡部!!」

「おっす!!」

「すまんが、おじさんの所にいって事態の報告をしてくれ。おじさんのあの底の知れない情報力は、なんだかの組織とのつながりがある。協力を要請してくれ。」

「わっかりました〜〜あ!!」

「俺は高校からあのアパートを見張る。残念ながら、俺一人でどうにもならん状況だ。支援が駆けつけるまで行動を監視する。もしかしたら今、未来は殺されるかもしれないが、それしか方法がない・・・。」

 悲痛な面持ちで俺は絞り出すように、最後の言葉をはいた。

 悔しい。わかっていたが悔しい。

 無力な自分に対して、無償に腹が立ってくる。

 しかし、俺にはこれしか方法はないと思っていた。

 林水や岡部の安全が第一だ。

 彼らが足掛けになっている。

 しかし、彼らがいなければ、この事はわからなかった。

 二人の安全を確保すること。

 その為には、警察やミスリルのような組織に頼るしかない。

 一番てっとり早いのは警察に行くこと。

 しかし、警察なんかに頼っていたら、時間切れになりかねない。

 いちかばちか、直接事情のわかる組織に直談判して、助けてもらうしかないのだ。

 今の時刻は17:00、後1時間。

「じゃあ、頼んだぞ!!」

悲壮の面持ちを隠しつつ、努めて明るい口調で俺は二人に話しかけた。

 林水も岡部も真剣な表情で俺の顔を見ていた。

「先輩、くれぐれも先走んないでくださいよ〜〜。」

 岡部が釘をさしてくる。

 そんな風に見えるのかな?

 本人はその気はないんだけど。

「ははは、そのつももりはないよ。岡部。いざとなったらどうなるかわからんけどね?」

「それならいいんですが・・・・。」

 まだ少し心配そうにしている岡部だった。

「全力をつくして間に合わせるよう、努力します。」

 そういって林水は一心不乱にキーを打ち始めていた。

 頬を伝う汗。

 必死になっている、林水だった。

「頼んだよ。林水。」

 こくりと頷く林水。

 さあ、いいたいことは言った。

「じゃあ、行ってくる。」

 そう言って俺は林水の家を後にした。

 後、一時間。

 果たして間に合うであろうか?

 悲痛な面持ちになりながらも俺は、自転車にまたがった。

 望みは一つ。

 未来がウィスパードであること。

 そうすれば、殺されずにすむのだ。

 そうなれば助けるチャンスが増えるのだ。

 今、この瞬間に未来が殺されないようにと祈りながら俺は、自転車を走らせた。



12


 ここは、高校の校舎の屋上。

 俺は双眼鏡を覗いていた。

 アパートの一室。

 あそこに未来(みら)はいるはずだ。

 未来を連れ去った男2人と共に。

 あいつらはまさか、自分達の監視していた校舎から、逆に監視されているとは、思わないであろう。

 未来を捕まえて気が緩んでいるはずだ。

 横には狙撃銃用のライフルがおいてある。

 腰の裏のベルトには拳銃とナイフ。

 しかし、これを使うことがあるかどうか?

 今、林水と岡部がミスリルとの接触を計っている。

 俺一人ではどうにもならないからだ。

 ただ、見張りをするだけ。

 気が付かれてもならない。

 根気よく、静かにアパートを監視する。

 それは思った以上に神経をすり減らす物であった。

 時刻は18:00。

 そう、まる1日がたとうとしている。

 未来がもしウィスパードではなければ殺されるかもしれない時間。

 胃が締め付けられるような気分だ。

 もしかしたら、今、この瞬間に未来が殺されるかもしれないという恐怖。

 今はただただ、未来がウィスパードであることを願うばかりであった。

 夕日が沈みかけている。

 おそらく奴らが動き出すのは、日が暮れてから。

 あと1時間だろうか?

 複雑な心境の中、俺は監視を続けた。





 辺りが暗くなってくる。

 19:00。

 ついにこの時が来た。

 生きている未来があらわれるのか、死体となった未来が現れるのか。

 緊張の一瞬だ。

 まだ出てこない。

 時間だけがただ過ぎていく。

 いらいらしだしたが、我慢しなければなるまい。

 と、男が一人出てきた。

 間違いない。

 あの時、俺を殴り気絶させた男だ。

 俺たちの情報が当たっていたという訳だ。

男1は、車を取って来たようだ。

 もう一人の男が何か抱えて出てくる。

 未来だ。

 ぐったりとしている。

 よく未来を見る。

 ああ、息をしているようだ。

「よ、よかった。」

 俺はそうつぶやいていた。

 しかし、どこかで殺すのかもしれない。

 あのアパートでやると、足がつくから、別の場所で殺そうとしているのかもしれない。

 俺はライフルをしまい、それを担いで下に降りた。

 こんなこともあろうかと、情報屋から、スクーターを1台借りていたのだ。

 車がちょうど動き出す。

 俺はつかず離れず尾行を開始した。

 時にはすぐ後ろに付き、時には乗用車を4、5台はさんでの尾行。

 どんどんと離れて行き、ついたのは病院であった。

「なんで病院なんだ?」

(まさか、未来がケガをしたから、治療にきたとか?)

(いや、そんな事あるはずないわな。)

 心の中で自問自答する俺。

(ここで未来を殺すか?ここって、奴らの組織の奴らの本当のアジトかもしれないな。)

 俺の感がそうつげていた。

 俺は携帯の電話を取る。

「もしもし、林水か?俺だ。今、病院にいる。ああ、後つけてきたらな。これから潜入しようと思う。ところでミスリルと連絡とれそうかい。そうか、まだ、駄目か。うん、無理はしないさ。とにかく頼んだぞ。」

 これで、援軍が駆けつけることができるな。

 病院を見上げる。

 そこはなんだか不気味さをかもしだしているような気がしてならなかっった。





 病院の中はシーンと静まりかえっていた。

 この中で、いく人もの人たちの命が助けられて来たのであろう。

 が、しかし、当たり前ではあるが、死に旅立っていった者もいる。

 そんな死の世界から呼ばれているような、そんな感じのする病院。

 不思議と後者の方のイメージが多くわいてくるのは、どうゆう事であろうか?

 死霊の呻きが聞こえてきそうだ。

 ただ単に今の俺がふさぎ込み気味だから、そう感じているのであろうか?

 きゅ、きゅ、きゅ。

 廊下に俺の足音が響く。

 たまに看護婦さんとか、患者さんと擦れ違うが、別段誰も俺のことを怪しいとは思っていない。

 実をいうと、この病院には、クラスメートが入院しているのだ。

 つい最近も、この時間に見舞いに来ているのだ。

 21:00の消灯まで、見舞いは許可された病院なのだ。

 あの時は別に何も感じなかったんだがな。

 そういや、入院してる、クラスメートがいっていたっけか。

 たまに霊を見るんだ。ここ結構恐いよって。

 あいつ結構霊感強いからな〜〜。

 今ならその事がよっくわかる。

 男達は、緊急通路からこの病院に入った。

 おそらくは、向かう場所は手術室か応急処置室。

 または、霊安室か?

 それらは、一般病棟から離れたところにある。

 さすがにこのあたりは、人影がない。

 シーンと静まりかえっている。

 通路を曲がろうとした時、ふと嫌な予感を感じた。

 近くのドアを開けそしてまた閉める。

 靴を脱ぎ、片手に持ち、もう片方の手に銃を握る。

 そっと壁越しから、通路を覗いてみる。

 誰もいない。

 いや、その更に奥から異様なプレッシャーを感じる!!

 裸足で、そっと忍び足で次の角まで行く。

 そっと覗く。

 普通と変わらない廊下。

 いや、その中の一つのドアから妙な気配がする。

 そっと近づいて、聞き耳をたてる。

「いつまでこんなことをせねばならんのかね!!」

 男の声、そう、これは、ここの院長の声だ。

 俺もここで何回か診察を受けた事がある。

 間違いあるまい。

「そんな事を言っていいのかね。」

 未来を薬を嗅がせて意識を失わせた男2の声だ。

「お前さんの妻と息子さんの命は俺達の組織が握っている。」

 簡潔に男1が言う。

「し、しかし、妙な薬を投与し、そして殺して、偽の死亡診断書を書くなんて私には、私には・・・・。」

「しかし、やらないと奥さんと息子さんの命がないんですがね。」

 男2がそう脅しをかける。

(きたねえ奴だな。)

 完璧に頭に来ている俺。

「もっとも今回は殺すのではなく、生かす為に連れてきたんだ。」

 男1がぼそっと言った。

(助けるために?と、言うことは、未来はウィスパードだったってことか?)

 少なくともこれで、未来の命は保証されたわけだ。

 少し気が楽になった。

「ど、どうゆうことかね?」

 院長は、震え声ながらも、意外そうに聞き返した。

「これまで、数人はここで殺していただろうに。」

「おまえさんが知る必要はないな。」

 妙に静かな声で男2は院長に言った。

 背筋の凍るような冷たい口調。

 だまりこむ院長。

 男2はさらに続ける。

「実はとある薬をうっていてな。な〜〜に、ちょっとした麻薬さ。しっているだろう。ここで死んだやつもその薬のせいだってことを。」

「ああ、知っている。」

「でだ、今回はその娘が我が組織にどうしても必要でな。禁断症状をおさえて欲しい。な〜〜に。死ななければいいのさ。植物人間になってもいい。」

 あまりに残酷な言い方に院長は絶句しているようだ。

 俺も同じだ。

「例のごとく、手術室に運んである。」

(手術室か。)

 俺はそっとその場所を後にした。

 地下に手術室はある。

 俺はとりあえず移動を開始したのであった。



13


 手術室の隣の部屋でじっと息を殺す俺。

 先回りして、未来を取り戻す手もあったが、麻薬のせいで未来が危険な状況に置かれていることが奴らと院長の会話でわかった。

 助け出した後に病状が悪化した場合、なす術がなくなる。

 ミスリルに接触すればどうにかなるかもしれないが、それは一種のかけに等しい。

 どうせならば、麻薬に詳しい、ここの院長に見せた後に助け出したほうがいいと俺は判断したのだ。

 もちろん隙があればの話だが。

 壁に集音マイクをつけじっと聞き耳をたてる。

 コツコツコツ。

 複数の足音が聞こえてきた。

 手術室のドアが開く。

「じゃあ先生頼んだよ。」

 男2の声だな。

 そういって二人の男は外に出たようだ。

 俺は手術室の奥の部屋に隠れていた。

 廊下の方の壁にも集音マイクをしかけておいた。

「じゃあ、俺は外を見張っている。」

 今のは俺を気絶させた男1の声だ。

「ああ、先生の話だと、注射と点滴で1時間くらいだそうだ。」

 これは未来(みら)を気絶させた男2の声だ。

(なるほど、1時間ね。)

 俺は心の中でつぶやいた。

(その時の状況次第によっては未来を連れて逃げ出す可能性もあるな。)

 問題はどうやって気絶している未来を連れて逃げるかだ。

 俺はいろいろと考えを巡らしていた。

 そして1時間が過ぎたのであった。

 そっと抜け出す俺。

 院長は気がついていないようだ。

 ナイフをそっと抜き忍び寄る。

 がば!!

 俺は背後から院長を羽交い締めにした。

「声を出すな!!」

 ナイフを見せ俺はそっと言った。

「な、なんだね。きみは?」

 院長が聞いてくる。

「そんなことはいい。ところで彼女の容体は?」

「君は彼女の彼氏かね?やめたまえ。奴らからは逃げ出せん。現に私は・・・・。」

 院長の言葉がとぎれた。

「そんなことはわかっている。でだ、彼女の容体は?」

 ナイフをぐっと首筋に押し付け俺は質問した。

 震え声ながらも答える院長。

「高濃度の麻薬を注射されているために、禁断症状をとおりこして、ショック死を起こしてもおかしくない状態だった。とりあえず濃度を薄めるために生理水を点滴した。」

 ショック死の可能性!?

 背筋に悪寒が走った。

 俺は努めて冷静に質問した。

「で、彼女は助かるのか?」

 院長は悲しげな目で俺を見ていた。

「病院に長期入院して治療して約50%の生存率・・・・。」

 俺はもう目の前が真っ暗になった気分だった。

 しかし、そうも言ってられないのだ。

「逃げられないぞ。君の事は内緒にしておいてあげるから、逃げなさい。彼女は気の毒だが、これ以上私や、彼女の様な目にあう人は少ない方がいい。」

 忠告してくる院長。

 しかし足が動かないのだ。

 それでは俺の気が治まらないのだ。

「で、今の未来の状況は?」

「安定している。もうすぐ気が付くだろう。」

「動くことはできるのか?」

「できない事はないが、いつ禁断症状や、ショック死するかわからんぞ!!」

 俺と院長は問答を続けていた。

「どうせ死ぬなら自由に死にたいわ。クルツ君。」

 はっと手術台を見ると、未来が起き上がっていた。

 青白い顔。

 しかし意志の強い表情をしていた。

「し、信じられん!!なんで、なんで正常に会話ができるんだ?なんで・・・・。」

 院長は信じられんとぶつぶついっている。

「み、未来。大丈夫か?あいつらになにもされなかったか?」

 俺は心配になって聞いていた。

「それってあいつらに私が犯されたてこと?なら大丈夫。なんかしれないけど、意識を失っていても、自分の状況はわかっているのよね。今のあなたがたの会話も聞こえていたわ。それにしても、クルツ君のH!!」

「いや、あのHっていわれてもな〜〜〜。普通はそうゆうふうに聞くもんじゃない?男としては?」

 くくくくく、自然と笑みがこぼれてくる。

 そう、これだ、これなんだ。

 未来はこうじゃなくっちゃ。

 会心の笑みをこぼしていであろう俺を見て、未来もにっこりと微笑んだ。  院長は不思議そうな顔をしている。

 まあ、無理もないわな。

 普通こんな状況だと、こんな会話するはずないもんな。

「さてと未来、逃げれるか?」

「逃げなきゃ自由になれないでしょうに。這ってでも逃げるわよ。」

「でも本当に大丈夫かい?途中でばったりなんてごめんだぜ。」

「う〜〜ん。わかんない。現に今も相当気分悪いしね。でも、今、行動しないととんでもない事になりそうな気がするの。それに。」

「それに?」

「クルツ君、助けてくれるしね。喜びなさい。こんな綺麗な女性が頼りにしているんだから。」

「綺麗〜〜〜ぃ。」

「あ、何。その言い方。」

 ああ、これよ。これ。

 たった一日しか会っていないだけなのに、不安だったけど、この会話こそが、俺と未来の姿。

 日常の本当に日常の姿。

 絶対取り戻してやるんだ!!

「さてと、院長さん。すまんが外の男、呼んでくれんかね。」

 軽い口調でお願いする俺。

 で、首筋にナイフを押し付ける訳だ。

「に、逃げられんというておろうに。それに彼女もいつまで持つことか。」

 必死に説得しようとする院長だが、俺はとりあわなかった。

 仕方ないという顔で院長は、トランシーバーを取った。

 非常時の場合これで連絡すると、話していたのだ。

「いいな、廊下にいる男だけだぞ。」

 俺は念を押した。

 さすがに二人のプロを相手にするには、荷が重すぎる。

「すまんが一人こっちに来てくれんかね。彼女が暴れてね。何、薬が切れてのことだろう。ベッドにくくり付けたいが一人だとうまく出来ん。手伝ってくれ。」

「よしわかった。今いく。おい、聞いたか。お前は引き続き見張りを続けてくれ。」

 男2つまり廊下にいる奴が答えた。

「よしと、ご苦労さん。」

 いきなり俺は院長に注射を射った。

「う、なにをした?」

「たんなる睡眠薬。お休みなさい。」

 院長はばたりと倒れ寝てしまった。

「未来、こっちに来て。」

 俺達は物陰に隠れた。

 腰から拳銃を抜く。

 精神を統一する。

 いよいよだ。

 一発でしとめる!!

 がーー!!

 第1の扉が開いた。

 こつこつこつこつ。

 足音が止まった。

 ぎ〜〜〜い。

 今、扉を開けて、男が入ってきた。

 手術室で倒れている院長を見つけてぎょっとなった。

「な、何があった!!」

 その瞬間、俺は物陰から横っ飛びで飛び出した。

 男はとっさに身を伏せようとする。

 しかし、俺は冷静にその様子を目で追っていた。

 ぱんぱんぱん!!

 三斉射!!

 2発が確実に男2の胸に吸い込まれた。

 ぐふ。

 ただそれだけだった。

 男はそれで死にたえた。

 が、もう一発の外れた銃弾が問題であった。

 手術で使う麻酔薬のボンベと高酸素ボンベに命中したのだ。

 結果はもうわかるわな。

 どっか〜〜〜〜〜ん!!

 派手な爆発!!

 あっちゃ〜〜〜、やっちまった。

 幸い、未来は物陰に隠れていたし、俺は相手からの反撃を考え、物陰から物陰に向かって跳躍していたので爆風の被害を免れた。

「あっちゃ〜〜〜。男を殺すことに神経集中しすぎて、ここが手術室てことを、うっかり忘れていたよ。」

 両手を広げまいったというジェスチャーをする俺。

 けほけほ、いいながら未来が物陰から出てきた。

「クルツ君って本当につめが甘いのよね。」

「お叱りごもっとも。でもそんなこと言っているヒマありませんぜ。お姫様。病院の連中が集まって来るし、何よりもう一人の男に気が付かれた。」

「そりゃそうよね。派手な爆発だもの。」

 うんうんと未来がうなずく。

 こんな時でも呑気に会話している俺達ってな〜〜。

「よし、裏から逃げるぞ!!」

 俺と未来は緊急出入口に走った。

 そして勢いよく飛び出す。

 パンパン!!

 いきなりの発砲。

 ごろごろと二人して転がりながら、植木の茂みに隠れる俺と未来。

 そっと覗き見ると、外で見張りをしていた男2が壁に隠れてこちらの様子を伺っていた。

「あちゃ〜〜。しまった。さすがプロだね。対応が早い。隙もないしな。」

 恐れいったってな感じで俺はつぶやいた。

「クルツ君どうする?」

 未来が楽しそうに聞いてくる。

 ははははは、本当に動じない人なのね。

 未来って。

「いや、どうするっていったってな。どうしよう。」

 頭をかかえる俺に一発の容赦ない言葉の銃弾を浴びせる未来。

「考えが浅い!!」

「うみゅ〜〜う。」

 本当にいつもの未来だな。

「すまんね〜〜。でも本当にどうしようかね〜〜。」

 ってな事を考えていると、いきなりジープが一台つっこんできた。

 ぎぎぎぎぎ。

 そして俺の目の前で止まった。

「クルツ先輩。如月(きさらぎ)先輩!!早く乗ってください!!」

「お、岡部君?」

 未来が驚いた声を上げた。

 パンパン!!

 男1が、銃弾を撃ち込んできた。

「未来、いくそ!!」

 俺は未来を無理やり抱え込み、ジープに飛び乗った。

 ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!

 タイヤを激しく鳴らし発進させる岡部。

 男1に向かって突き進む。

 寸前のとこで飛び退く男。

 そしてそのまま、病院に未来を乗せてきた乗用車に飛び乗った。

 かくして、夜の町のカーチェースとなったのである。



14


 ギャギャギャギャギャ!!

 タイヤをきしませながら交差点を曲がるジープ!!

 その数秒後、乗用車が同じくタイヤをきしませながら、後に続く。

 夜のカーチェース。

 街灯の光が矢となって後方に流れていく。

 郊外にある病院なため、道は比較的空いてはいるが、それでも時より擦れちがったり、前方を走っていたりする。

 ジープを運転する岡部は、起用にそれらをかわしていった。

 きりさく風の音の中、岡部は平然とした口調で話かけてきた。

「如月(きさらぎ)先輩。クルツ先輩。大丈夫ですぁ〜〜!」

 100キロ近くは出ているであろうジープを運転しながら後ろの座席に座る俺の方を向いて岡部が聞いてきた。

「お、岡部君って車なんか運転できたの?」

「大丈夫、大丈夫!!如月先輩。俺こう見えてもカートやっていたんですよ。車の運転くらいどうってことないっす。」

「ふ〜〜ん。でも、クルツ君だけじゃなくて、岡部君も私の救出に奔走していたんだ〜。御免ね。岡部君。」

 頭を下げる未来に対して岡部はにやりと笑って答えた。

「なに、先輩見たいな美少女を悪魔の手に渡すわけにはいきませんからね〜〜。」

「まあ、なんて素直な事言うんでしょう。それに比べてクルツ君ったら。」

 ジトーっと俺をみる未来。

「ちょっと待て!!そりゃ、どうゆう意味じゃ。未来!!」

 俺は反論した。

「本当に、本当に未来の事好きなんだぞ!!俺は。男に襲われた時、本当に、未来を守れなくて後悔したんだぞ!!だから一生懸命岡部や、林水に協力してもらってやっと未来の居場所を見つけて、今、この手で人を一人殺して・・・。」

 今になって、人を殺したという実感が涌いてきた。

 体がガタガタ震え出してきた。

 銃を撃った瞬間の反動。

 そして、吸い込まれていく銃弾がはっきりと今でも目に焼き付いている。

 さらに病院を火事にしてしまったのだ。

「俺は、俺は、ううううう。」

 呻く俺の手をを未来がそっと握った。

「ごめんね。クルツ君。少しでも気分をまぎわらそうといったの。今のあなたには酷だった見たい。ごめんなさい。」

 未来は泣きそうな顔をしていた。

 俺と未来の顔が近づきキスをしていた。

 なんかとても安心出来る。

 やっぱり俺には、未来がいないと駄目だなと心底思った。

「あの〜〜、時と場合を考えてくださいよ〜〜。先輩たち。」

 運転しながら、岡部は苦笑していた。

 あわてて離れる俺と未来。

 互いに顔が真っ赤だったりする。

「あ〜〜、え〜〜なんだ。その。」

 あああ、言い訳出来ん程、混乱してるぞ。

 俺は。

「いや、いいんですけどね。私と致しましては〜〜〜。でもね。後ろの車の奴、すっごく腕がいいんですよ。そろそろ追い付かれますね。」

 後ろを見るとさっきまでは、100メートル近く離れていたのに、すでに50メートルまで近づいていた。

 突然、未来が叫びだした。

「岡部君!!右によけて!!。」

 岡部は反射的にハンドルを右に切って、対向車線に進路を変更した。

 車から閃光が走る。

 パンパンパン。

 車をからの発砲!!

 銃弾は、元々走っていた車線へ正確に吸い込まれていった。

 もし未来が警告しなければ、銃弾は命中していたであろう。

「未来、なんでわかったんだ?」

 俺は問いかけた。

「わ、わからない。わからないの!!クルツ君。突然頭の中に声が響いてきたの。なんなの?これは?な、なんなの?」

「しっかりしろ。未来。大丈夫、俺がついているんだから。」

 青い顔をして未来は震えていた。

「岡部君、来る!!」

 岡部はまたハンドルを切った。

 パンパンパン。

 また銃弾がかすめる。

 くそ。きりがない。

 俺はライフルを取り出した。

「岡部。そのまま直進してろ!!」

 俺はスコープをのぞき込んだ。

 男2が運転しながら起用に銃弾を装填していた。

 風の方向。車の速度。

 俺は次々に頭の中で計算していく。

 男2は銃を撃ち始めた。

 パンパン。

 銃弾が俺達の車をかすめる。

 しかし、俺は神経を集中させていた。

 イメージを作る。

 そして重なった。

 引き金をひいた。

 ずど〜〜ん。

 一発。

 たった一発。

 俺は確信していた。

 これで終わったと。

 バリ〜〜ン!!

 車のフロントガラスが割れた。

 そして、車は道を外れ、木に激突。

 炎上した。

 郊外でよかったよ。

 本当に。

「さてと、岡部。とりあえずここを離れるぞ。」

 俺は岡部にいった。

 し〜〜んと静まり返った車内には、ただ、風の音しか聞こえなかった。



15


 校外のさびれた倉庫郡。

 その一つに俺たちは身をよせた。

 岡部の提案である。

「なんで倉庫郡に行くんだい。岡部よ。」

「理由は2つですよ。クルツ先輩。」

 ジープを走らせながら岡部は答えた。

「まず一つめですが、ジープのガソリンが無くなりかけています。でもここは郊外でガソリンスタンドがありません。」

 未来(みら)がわかったというような顔をして、言った。

「例えあったとしても、中学生とわかる私達がいったら、怪しまれるものね。」

「なるほどね。」

 俺も納得した。

 確かにそうだ。

「はい。その通りですよ。如月(きさらぎ)先輩。もう一つですがね。博物館のおじさんの助言です。」

「え?博物館のおじさん?」

 未来は?ってな顔をしていた。

 俺が説明してやる。

「俺の持っている武器はおじさんがくれたんだ。今回、未来を去らった連中の目的、ブラックテクノロジーの情報を持つかもしれないウィスパードと呼ばれる少年・少女を誘拐して、無理やり、死の危険性のある麻薬系の薬を射たれ、違ったら殺す。ていう情報を提供してくれたのも、おじさんなんだ。」

「なんかすごい人だたんだね。おじさんって。」

 未来は本当に驚いたって顔をしていた。

 そりゃそうだ。

 俺だって驚いているんだから。

 岡部が続きを言う。

「実はですね。おじさんの正体がわかりました。林水に裏もとってもらいましたが本当のようです。」

「なんだっていうんだい?」

「国家国土安全管理局局長ですよ。先輩。」

「聞き慣れない言葉だね。岡部よ。何それ?」

「簡単にいえば、非公式ですが警察・海上保安庁・自衛隊などの上にある組織ですね。現在の法律に縛られない組織で、おじさんはそこのトップですよ。緊急時には総理大臣と同じくらいの権限をもつ組織です。」

 おいおいおいおい。

 俺の素直な感想だ。

「おじさんは言ってました。緊急時ではないので、各関係省庁に連絡をとらなければならない。よってすぐに管理局が動けない。だから、先輩に武器を渡したそうです。で、いろいろ根回ししてくれました。先輩は臨時の管理局局員として超法規的処置を受けるそうです。銃の携帯、発砲の許可。今回の事件においての損害や人への危害を加えた場合の刑法の無効化です。」

「つまりは、今、俺は公務員てことかい。」

 思わぬ展開に戸惑う俺に未来がちゃちゃをいれてきた。

「よかったじゃない。クルツ君。就職先決まって。」

「あのね。未来。そうゆう問題?」

 あきれてしまう俺に対して、未来はしれっと答えた。

「なにはともあれ就職おめでとう!!」

「いや、違うって・・・・。」

 頭を抱える俺であった。

「で、ですね。そこが待ち合わせ場所です。今19:30ですよね。21:00に待ち合わせです。」

 なるほどね。

「それから、ミスリルとの連絡ですが、林水とおじさんがアクセスをとろうと今も誠意努力中です。おじさんの考えは、もし如月先輩が無事だったら、ミスリルに渡して、早期治療を受けさせるべきだといってました。なんでも誘拐事件については、管理局も捜査していたそうですから。」

「なるほで、それで、おじさんは俺に協力してくれた訳ね。」

 それで俺も納得した訳だ。

 かくして俺達は郊外の倉庫群へと向かったのである。





 ふるぼけた倉庫に俺達は身を隠した。

 しかし、事態は急変したのだ。

 未来が急に苦しみ出したのだ。

「未来、未来!!大丈夫か!!未来!!」

 俺は必死に呼びかけていた。

 俺は岡部に頼んで近くの公園まで水を汲みにいってもらっていた。

「ううう、くくくく、くるしい。苦しいの。あう、あうあうあうあうあうあう。」

 脂汗を流し、苦しそうに呻く未来。

 恐れていたことが起きたのだ。

 そう言えばリュックの中にボトルに入った水があった。

 少しでも気を楽にしてやろうと、端においておいたリュックの所に行った。

 ブワ〜〜〜!!

 いきなり毛が逆立った。

 後ろからすごいプレッシャーを感じたのだ。

「だから、無理をすればこうなると忠告したであろうに。」

 聞き覚えのある声。

 間違いない。

 し、しかし、この異様な雰囲気。

「い、院長。なんであんたがここにいるんだ。」

 俺は振り返りながら、言った。

 そこには、片膝をつき、未来の様子を見ている院長がいた。

「残念だがね。もう手遅れだよ。あまりに無理をさせすぎたせいで、精神いや、脳に負担がかかっている。」

 ふっと笑いながら院長がつぶやいた。

 俺は動けずにいた。

「な、なんでここにいるんだ?」

 俺は素朴な疑問を口にした。

「な〜〜に。未来君の服に小型の発信器をつけておいたのさ。こんなこともあろうかと思ってね。」

 にこやかに答える院長。

「こんなこともあろうかとだと?院長!!あんた何者だ!!」

「な〜〜に、と、ある組織の日本支部長さ。」

 いともあっさりと答えた。

 あの病院を見て、もしかしたら、組織の本部だったりしてなんて考えたが、まさか院長が黒幕だったとは。

「質問がある。あんたの家族は?」

「人質には取られてないよ。よく言うではないか。敵を欺くのはます味方からって。こうしとけば、なにかあっても言い訳できるからね。しかしよくもまああの二人を倒したものだね。」

 院長はへらへら笑いながらのたまった。

「じゃあ、組織の人間だと家族は知っているのかい?」

「いいや。知らないさ。大事な家族だ。なんにも知らんよ。」

 その言葉に俺はムッときた。

「なら、なんで罪もない人達を殺したんだ。」

 聞かずにはいられなかった。

 どうせ、そんな事は気にもしていない男であろう。

「私の病院は、10年前に建てたものだ。貧乏医者、唯一の救いは借金のなかったことかな、そんな私の夢、自分の病院を建てて人々の役に立ちたい。そう思っていた時、この話が舞い込んできたのさ。もちろん悩んだよ。しかしね、この話が舞い込んで来た時点ですでに時遅しさ。もし断ったらどうなるか?」

「そうゆうことか・・・・。でも。」

「ああ、君の言いたいことはわかるよ。家族を守るため、自分の夢を実現させる為とはいえ、人殺しをしてきた事は、事実だからね。」

 恐ろしく悟った者の澄んだ目をした院長。

「そこまでして建てた病院が燃えてしまったよ。君が悪いわけではないことはわかるよ。私自身家族を人質に取られそうになったんだから。」

 おそらく、院長にナイフを突き付けた時、院長が俺に向かって説得した言葉は真実なのだ。

 本気で俺を逃がそうとしていたのだ。

「しかし、私の夢の病院は燃え、組織にも狙われるだろうな。クルツ君。銃を抜きたまえ。私は家族を守るために戦う!!」

 院長は拳銃を懐から取り出し、銃口を下に向けていた。

 俺は無言で腰のベルトにはさんでいた拳銃を手に取った。

 互いの大事な者を守るために。

 お互いの事を理解しつつも。

 今、戦いの火蓋がきっておとされた。

 パン!

 俺は横に飛びながら銃を撃った。

 院長は予想していたのであろう。

 すぐに物陰に隠れやり過ごしていた。

 パン!

 院長が威嚇射撃をしてきた。

 俺は身を伏せる。

 パン!!

 さらに院長は銃を撃った。

 それは、上の柱にあたり、角度を変えて俺の腕をかすった。

(こ、これは偶然じゃない!!)

 俺は恐怖を覚えた。

 とにかく俺も威嚇射撃をする。

 しかし、院長は巧みにそれをかわし、威嚇射撃をしつつも跳弾を利用して、俺を狙ってきた。

(くそ!!)

 このままではジリ貧で負ける。

 いったい、院長は何者なんだ?

 そんな時、頭に未来の声が響いてきたのである。

(な、なんだ?)

 突然のことに戸惑う俺。

 しかし、なんとなく懐かしくもある。

(未来。未来なのか?)

 俺は心の中でつぶやいていた。

(そうよ、クルツ君。)

(大丈夫なのか?)

(あんまり大丈夫じゃないみたい。頭はいたいし、意識失ったまんまみたい。)

(おいおい、それって幽体離脱ってやつかい?)

(さあ?でも、とにかくクルツ君の援護は出来るわよね。)

(まあ、そうだがね。早くケリをつけて、病院にいかないとな。未来。)

(ええ、そうね。私の指示に従って!!)

(了解!!)

 かくして、俺と未来の共同戦線が張られたのである。



16


「ははははは、クルツ君。どうしたのかね?もう負けを認めたのかね?」

 院長は高笑いをしながら話かけてきた。

 一見正常に見えたが、どうやら精神的に故障をもっているのかもしれない。

 それとも銃撃戦という非日常的なことをしているため、神経が高ぶっているのであろうか?

 パン!!

 院長はまた発砲した。

 キン!!

 跳弾が俺のすぐ近くをかすめる。

 まったく、某漫画の某スイーパーの助手か?あいつは?

 いや、それよりもたちが悪い。

 なんせ狙ってやってるんだからな。

 院長は。

(クルツ君。あと1発撃たせて。それで相手の弾切れよ。交換する前に一気にケリをつけましょう。)

(ふむ、しかし未来(みら)よ。相手もプロだぞ。その辺の事はわかってるんじゃないかな?)

 俺は素朴な疑問を頭の中で言った。

 未来はクスリと笑って(そのように感じただけだが)、

(大丈夫。まかしといて。)

 未来は自信たっぷりに胸をはるように請け合った。

(なあ、未来。これが片ついて、未来の症状を直したら、結婚しようか?)

 自然に、自然にでてきたプロポーズの言葉。

(確かにまだ俺たち中学生だけど、早すぎるかもしれないけど、もう、未来と離れるのは嫌だよ。今回のことでよくわかった。)

(クルツ君、嬉しい・・・・。でも本当に早すぎない?)

(まあね。もしかしたら最後になるかもしれないからさ。せめてこんな時くらいは、真面目に言っておこうと思ってさ。まあ、考えておいてよ。)

(でも、生き残る為に全力は尽くすべきよ。クルツ君。)

(ああ、わかっている。)

 俺はうなずいていた。

(あ、話し込んでるうちに、弾を充填しちゃったみたい。)

(やっぱ、プロは違うね。)

(ごめんなさい。クルツ君。)

 申し訳なさそうな未来だが、まあ、俺にも原因あるわけだしね。

 突然、頭の中に倉庫の全景が鮮明に浮かんだ。

(こ、これは?)

(私が見せているの。見てここを。院長が壁からクルツ君のこと覗いているでしょう。ここまでわかれば、クルツ君なら大丈夫でしょう。)

 わずかに、本当にわずかに顔が出ている。

 互いに銃撃戦をやっている場合、こんなのはまずあたらない。

 なにせろくに狙いをしぼれないんだから。

 これは、すでに射撃のうまいへたの問題ではない。

 集中力。

 これだけだ。

 俺は目をつぶった。

 未来の送ってくれるビジョンをより鮮明にするために。

 パン!!

 院長はまた撃ってきた。

 足に命中する。

 しかし、痛いとは感じなかった。

 今のでわずかに顔が出ている。

(今だ!!)

 俺はガバっと立ち上がり、3斉射した。

「ぐは!!」

 し〜〜んと静まりかえる。

 院長がスローモーションのように倒れる。

 鮮血を巻き散らしながら。

 こつこつこつ。

 俺は無表情に院長に近づいた。

 即死。

 これでひとまず終わった。

 俺は安堵した。

(未来やったよ。)

 俺は心の中でつぶやいた。)

 しかし、未来からの返事がない。

(未来?未来!!)

 俺は嫌な予感がした。

 いいしれぬ恐怖が全身をかけ巡る。

 俺は未来のそばにかけよった。

 虫の息とはこの事か?

 未来は意識を失っていた。

「未来。未来!!」

 俺は必死に揺さぶり呼びかけていた。

 ガラガラ!!

 その時、倉庫のドアが開いた。

「先輩!!大丈夫ですか!?」

 岡部が駆け寄ってくる。

 自衛隊の兵士が数十人、銃をもって駆け寄ってくる。

「ち、遅かったか。」

 おじさんの声。

 見ると、杖を片手に立っていた。

「おじさん。未来が、未来が!!」

「わかっておる。すぐ病院へ運ぶぞ!!」

 おじさんは部下に命じていた。





 まる1日がたった。

 未来の状況は微妙な状況だった。

 医者はすでに手遅れと判断していた。

 今は林水やおじさんの情報網をつかって接触を計っているミスリルの情報にかけるしかない。

 もしかしたら、特効薬があるかもしれない。

 今は、未来の命を延命している。

 そうゆう状況だった。

 病室には、俺と未来の二人きりである。

 俺は寝ずにずっと未来の手を握っていた。

(俺の選択は間違っていたのであろうか?)

 頭の中で自問自答する。

(無理をしてでも救出すべきでなかったのか?)

(院長を人質にとって逃亡すればよかったのか?)

 しかし、どう考えても今回やったことがベストな選択であった。

 でも、未来は今、意識不明の重体。

 いつ死んでもおかしくない状況なのだ。

 あの時、男2人にさらわれた時、あの時俺がもう少し粘っていれば、勝てなくとも粘ってさえいれば、通行人に目撃され、男達は退散したかもしれないのだ。

 後悔ばかりが脳裏によぎる。

「俺がもう少し強かったらな。未来よ。こんな目には合わせなかったのに。」

 俺は意識の無い未来につぶやいていた。

「俺が無事にここにいるのも、未来のおかげだ。院長との戦いの時、ウィスパードの力をテレパシーという形で利用して、俺を助けてくれた。」

 そう、おそらくすでに限界にあったにも関わらずだ。

「情けない。情け無いよな。未来。守って見せると誓いを立てていたのに、結局未来に助けられていて。」

 俺は目から涙を落とした。

「情けないよな・・・・・・。」

「そんなことないよクルツ君。」

 はっとして、俺は未来の顔を見た。

 こっちを見てにっこりと微笑んでいる。

 天使のような微笑み。

 俺にはそう見えた。

「クルツ君。いっぱい、いっぱい悩んでいたでしょう?私聞こえていたわ。でもねクルツ君は、いつもいつも、私のこと気にかけていてくれたじゃない。」

「いいや、俺はそこまで思ってないよ。未来。」

「嘘つき。私のテレパシーの能力は微弱ながらも昔からあったの。確かにスケベな事も考えていたけど、いつもクルツ君は私のことを気にかけていてくれたわ。」

「でも、未来を守り切れなかった。」

「ううん。仕方無いわ。クルツ君は全力を尽くして私を助けにきてくれた。それだけで私は・・う、嬉しいの。」

「み、未来?どうした。未来!」

 息もたえたえになりながらも未来は語り続ける。

 俺はナースコールボタンを素早く押し、そして未来の手をさらにギュッと握った。

「今、先生呼んだから頑張れよ。未来。」

 はあはあ、苦しそうに息をしながら、未来は首を振った。

「クルツ君。残念だけど駄目みたい。本当はね、今にも気が狂いそうなの。クルツ君にそんな姿見せたくないから必死に理性で抑えているけどね。わかるの。私には。昔から、テレパシーの能力のあった私はね、簡単な予知もできるの。もしかしたら、ウィスパードっていうのと関係あるのかもね。それに、そんな能力なくても、自分の体の事はわかるわ。」

「ううう、駄目だよ。未来。諦めたら負けだ。」

「ええ、わかているわ。でもね、本当に駄目みたいなの。私だって、死にたくない。死にたくないわ。クルツ君。でも、でも本当に駄目みたい。」

 未来の目に光が光った。

「短い人生だったけど、私は後悔してないわ。だから、クルツ君。そんなに自分をせめないでね。私の分まで楽しんでね。でも、他の女の子にクルツ君とられるのは、少し嫌だけど、そんなこと言ったらクルツ君死んじゃうしね。」

「未来・・・・・・。」

 俺は何もいえなかった。

「だから、そんな悲しそうな顔をしないで、ね・・・・」

 そう言って未来の手から力が抜けた。

「待ってくれ!俺は、俺はまだなにもお前にしてやっていないんだぞ!お願いだから待ってくれ〜〜〜!!」

 俺は力の限り未来に叫んでいた。

 しかし、未来は二度と目を開けなかった。

「未来〜〜〜〜〜〜〜!!」

 バタン!!

 ドアを開けて医者と看護婦、岡部とおじさん、そしてなんと、林水と高校の校長先生が駆け込んできた。

 未来の様子を見て林水はつぶやいた。

「遅かった。遅かったか・・・・・。」

 窓からは、夕日が沈んだあとのブルーの闇の空が見えていた。

 未来が恐怖におののき、そして、神秘的だといった空。

 その空に包まれて、未来は15年の短かすぎる人生の幕を落とした。





「ハワイ行き143便にお乗りのお客様は14番ゲートにお越しください。」

 これから海外に旅立とうとしている人々のごった返す国際空港。

 観光に行く人、仕事の出張に行く人、様々な人々が行きかっている。

 そんな中に俺はいた。

 見送りは4人。

 林水と岡部、おじさん、そして、校長先生だ。

 驚いたことに、校長先生こそ、ミスリル日本連絡支部長だったのだ。

「ごめんなさいね。クルツ君。まさか、未来さんがウィスパードだったなんて。」

 未来が死んだ後、校長先生はそう言って俺に頭を下げた。

「私の本職はミスリル情報員だけど、それを隠す隠れ蓑として、高校の校長をやっていたの。まさか、高校をミスリルの支部と思われるなんて、私の完全なミスです。謝っても許されることではありませんが、許してください。」

「いえ、いいんですよ。高校に取材に行こうと言い出したのは僕なんですからね。それを聞いて校長先生が裏で手を回してくれただけでしょう。いだしぺの僕が一番悪いんですから。」

 校長先生は、いろいろと話してくれた。

 ミスリルのこと、ウィスパードのこと。

 そこで俺は決心したのだ。

 いずれミスリルに入って、他のウィスパードを守りたいと。

 しかし、ミスリルは戦闘経験豊富なものしか戦闘員としてスカウトしないというのだ。

 そこでおじさんが手を打ってくれた。

 俺を正式な国家国土安全管理局員として正式に雇い、非公式に日本の傭兵として、南米の紛争地帯の政府軍傭兵として、参加できるようにしてくれたのだ。

 未来が死んでから一ヶ月、俺は自衛隊の基地で様々な基礎的な訓練を消化していった。

 血ヘドを何回吐いたことであろうか?

 それでも、俺は必死に頑張り、今、こうして空港にいる。

「先輩。気をつけて行ってきてくださいよ〜〜。またいつの日か先輩とバカ騒ぎしたいんですから。」

 岡部が豪快に言い放つ。

 岡部はあの時、自分が水を汲みにいかなければと後悔していた。

 しかし、俺はそうは思わない。

 あの場合、誰かが水を汲みに行くのは、必然のことなのだから。

「クルツ先輩。ご無事で。」

 きらりと光る、眼鏡のレンズ。

 林水は、けして目が悪いわけではない。

 現に眼鏡には度が入っていない。

 この中で一番最後まで苦労していたのは林水といえる。

 最後の最後までミスリルとの接触を模索していた。

 やっと、校長先生を突き止め、病院に急行した時、未来は帰らぬ人となっていた。

「私がもう少し早く、ミスリルと連絡が取れていたら・・・・。」

 林水はそう、何度も何度もつぶやいていた。

 それからだ。

 林水が眼鏡をかけだしたのは。

「もっともっと、真実を見逃さぬようにという戒めですよ。」

 林水はそう答えた。

 それぞれの心にそれそれの傷と教訓を残して、事件の幕は閉じた。

 なお、未来は海外の父親が負傷したとして、急遽海外に行き、その1週間後、現地で病気に犯され死亡したことになった。

 もちろん、未来の親父さんにはすべての事実を話した上だ。

 そして、もちろん同行している俺の親父も口裏を合わせるため、この事を聞かされていた。

 後日、未来と俺の親父から国際電話がかかってきた。

「ありがとう、クルツ君。未来も満足だっただろう。」

「よく頑張ったな。クルツ。」

 二人とも辛いだろうに、そんな事はみじんにも見せずに、俺に労いの言葉をかけてくれた。

 俺はその時、泣いた。

 そろそろ時間だ。

「行ってきます。皆さん。またいつの日か・・・・・。」

 こうして俺は機上の人となった。

 ここから、俺の傭兵人生が始まるのである。





 九死に一生をえて、俺と宗介、そしてかなめちゃんはデ・ダナンに収容された。

 俺は相当の怪我をおい、しばらくは現場復帰は無理であろう。

 医務室に横たわりながら、俺はそんな事を考えていた。

 気絶している間にまた、未来のことを思いだしていた。

 あの後、未来を連れ去った組織の名前と本部の場所が分かり、俺は一人で奇襲をかけた。

 徹底的に破壊しつくし、幹部共を全員血まつりにしてやった。

 もちろん、すぐに逮捕され、刑務所にぶちこまれたわけだが、ミスリルが多額の保釈金を支払ってくれた。

 そして、一人で組織を破壊しつくした腕を買われて俺は念願のミスリル入隊をはたし、現在にいたるのである。

 もっとも保釈金の返済のため借金で首が回らない状況ではあるのだが。

 そんな事を考えていると、医務室の扉が開いた。

 宗介だった。

 宗介はかなめちゃんの前に立つ、とじっとかなめちゃんを見ていた。

「宗介、かなめちゃんのこと心配かい?」

 俺はそっとつぶやいた。

「クルツ、気がついていたのか?」

「ああ、まあね。いいか、宗介。お前はどうも一般常識にかけるところもあり、女心もよくわからないかもしれないけどな、かなめちゃんのこと気になるんだろ?」

 宗介はちょっと考えてから「肯定だ。」と、一言いった。

「なら、その気持ち忘れるなよ。彼女を守ってやれよ。俺みたいに、好きな女の子を死なせちゃ駄目だぞ・・・・。」

「どうゆう意味だ?クルツ?」

 しかし、麻酔が効いてきたのか?俺は答えれずそのまま闇の世界へと招待されていった。

(ふふふ、夢の中でまた、未来と会えるかな?)

 そう思いながら深い眠りについていった。



あとがき


 終わりました。

 それが素直な今の感想です。

1999年5月18日、HP開設時から1週間おきに掲載してはや3ヶ月。

8月14日、17話、あとがきを含めれば18話で第1部完結です。

 最後の15話からは、2日間で一気に駆け足で仕上げましたがいかがなものでしたでしょうか?

 BBSや、メール等で批評をくだされば幸いです。



 さて、ここでは、私がネタにした事をここで公開しようと思います。

 さ〜〜ともう1回見直して単語等抜きましたので、全部とは、いきませんが、ご了承のほどを。

 では、いってみましょう。



1 クルツが主人公の訳


 何故そうしたか?

 単に書きやすかったからです。

 テッサを学校に行かす為のプロセスといいましょうか?

 そう、ここからだんだんと話が流れていきます。

 いつの間にかクルツが好きになっていました。


2 如月 未来(きさらぎ みら)の名前の由来


 如月というのは昔の暦ですよね。

 ほら、これで、他の登場人物の名字確保できた(笑)

 未来にはばたく、未来に幸せのある。

 でも実際は短い生涯というある意味捻くれた皮肉ですね。

 発音が『ミライ』というのもなんなので、未来と書いて『みら』と呼ぶようにしました。


3 過ぎ去りし思い出


 クルツの過去の話と決めた瞬間、すぐに決まったタイトルです。

 クルツにとっての楽しくそれでいて辛い過去。

 過去のことがわからず、それでいて、明るいクルツの過去を語るんですから、これが一番しっくりくると思いました。


4 漆黒のブルーの暗闇等


 このネタは少女漫画、「銀色のハーモニー」(柊 あおい)の1巻にでてきます。

『日の暮れた空の色ってなんて透明。

 青と紫、水に溶かして拡げたみたい。

 吸い込まれそう。

 空気が空に溶けていく。

 私も周囲も夢の中にいるみたい。

 町並みが影絵になる。』

(「銀色のハーモニー」より抜粋)

 こんな感じの空です。

 如月 未来(きさらぎ みら)の神秘的な、それでいて本人の恐れを表現するために、使わせてもらいました。


5 歌合戦


 私の通っていた高校の学校祭のメインで、すごかったですよ。

 本当に。

 殆ど役立たずでしたが、学校祭の実行委員会お手伝い的役割をしていた私は、てんでわんやの忙しさでした。

 クラス同士の対抗戦なんですが、やる気のないクラスもありましてね。

 予選よりも準決勝、準決勝よりも決勝がよりレベルが高くなり、パフォーマンスも派手になり面白かったです。


6 日替わり和菓子セット


 私は緑茶に和菓子ってのが好きです。

 もちろん他の物も好きですが、この時が一番落ち着きますね。

 沖縄の黒砂糖をなめながら、沖縄のお茶をすするってのも好きですね。

 長年日本に住んでいるクルツは、きっとお茶とか好きに違いないという思い込みで書きました。


7 エリス  エル


 当HPと相互リンクを張っている、DRTさんの小説キャラに出演してもらいました。

 喫茶店やってましてね。

 どうせならってことで出演してもらいました。

 DRTさんと、ゆーいちさんの2人の影響で、HPを作り、小説を連載したといっても過言でなかったりします。


8 おじさん


 元ネタは、フルメタ通刊4巻、「本気になれない二死満塁?」の「キャプテン・アミーゴと黄金の日々」に出てくる、酒場のマスターです。

 元傭兵で、過去を持つ男として描きましたが、最後の方では国家国土安全管理局局長なんて役職についています。

 これのネタは、ブルーシードだったりします。


9 林水  岡部


 林水閣下は、本来出すつもりはありませんでした。

 しかし、フルメタの公式HP、給湯室(BBS)にて皆があまりにも閣下は昔から閣下のままだ、というので、よっしゃ、ならこれならどうだと、出演してもらいました。

 岡部は、まあ、クルツの後輩ということで急遽作ったキャラです。


10 Zファイル


 もうおわかりのXファイルですね。

 そしてここでのべられた、クルツ、林水、岡部の言葉こそ、私の超常現象への考え方です。

 なんでも科学を万能と思うなかれ。

 どんな不可思議なことも克明に記録し後世に資料として残すこと。

 いつの日か、解明される日が来るかもしれないんですからね。

 皆さんはどうお考えですか?


11 病院


 今回のDM(9月号か?)にて、怪談話に出てきた病院。

 まさにこれがモデルです。

 そこにクルツが絡んでいたという設定で書きました。

 ほら、火事になっているでしょ。

 で、院長の妻が事実を知り、自殺するんですよ。

 長々と続けたからこそ、出来たネタですね。


12 カーチェース


 これは、もろにフルメタ通刊第3巻「疾るワン・ナイト・スタンド」を参考に書きました。

 クルツの銃の腕はこの頃から神業的であったと思ったので書いてみました。


13 校長先生


 物事に動じない中年女性の校長先生。

 もうお分かりと思いますが、彼女こそ、陣代高校の校長です。

 そう、クルツと未来の取材にいった高校は、実は陣代高校だったわけです。

 彼女こそミスリルの情報員じゃないかなと前々から思っていたため、こうゆうふうに出演させてみました。


14 謎の組織


 初めは、アマルガムにしようと思ったんですが、クルツがミスリルに入隊出来た理由と借金を背負った理由として、まったく別の組織として、登場させました。

 いや、これを考え付いたのその事を書き始める1分前ですよ。

 ほとんど思い付きです。




 いかがでしたでしょうか?

 これにて終了!!

 さて、今後の予定ですが、お約束通り、冴木 忍 作品の「風の歌 星の道」パロディ小説を連載します。

 まあ、短編の予定ですから、2話ですまそうと思っていますけどね。

 そしてその後、いよいよ第2部「クルツ君の闘病生活」をお送りいたします。

 かなめ救出の戦傷を癒すためメリダ島の病院に入院するクルツ。

 看護婦さんにちょっかいを出したりと、いつものクルツである。

 だがしかし・・・・・・。

 後はお楽しみということで。

 近日掲載予定です!!

 皆さん、ちょっとお待ちくださいね。



1999年8月13日




過ぎ去りし思い出



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